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~「カズレーザーと学ぶ。」ツボの話の補足と余談~

日テレ ホームページ カズレーザーと学ぶ。 より
日テレ ホームページ カズレーザーと学ぶ。 より 

 

 

先日、日本テレビで『カズレーザーと学ぶ。』という番組が放送れました。

 

日テレ カズレーザーと学ぶ。

疲れないカラダを手に入れる方法を深掘り!慢性疲労の原因は脳の炎症?疲れやすい体質改善のカギ「NO」とは? 2024.02.06 公開

 

テーマが<疲れないカラダを手に入れる方法を深掘り!>でした。ツボや鍼灸に関して紹介するという内容から放送前から鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の界隈が注目していました。まだ視聴していない方は約1週間TVerで無料視聴できますのでご覧になっていただきたいです。

 

TVer カズレーザーと学ぶ。 若い人に増える「なんかダルい」は脳の炎症!?脳&ツボ疲労回復法

 

この放送では大きく3つの項目に分かれていました。私と大いに関りがあるのが<ツボで本当に疲れはとれる!?脳内麻薬オピオイド>というところ。放送された内容に関して専門的な部分を補足し、余談も入れていこうと思います。

 

粕谷大智先生

まず講師として登場した粕谷大智先生について。現新潟医療福祉大学鍼灸保健学科科長です。その前は東京大学医学部附属病院リハビリテーション部で30年以上勤務していました。昨年新規開設された新潟医療福祉大学鍼灸保健学科の科長になるために移られました。私にとっては東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科時代の恩師の一人になります。粕谷先生の3か月間の授業は非常にためになり、教員養成科卒業後に自治医科大学附属病院で鍼灸師として勤務する際に、最も助けになった授業内容でした。3年前の教員養成科特別授業で学校にいったときにたまたま再会することができました。

 

 

あじさい鍼灸マッサージ治療院 2021年東京医療専門学校にて粕谷先生と
2021年東京医療専門学校にて粕谷先生と

 

 

 

現代科学でのアプローチ

導入部分でツボ刺激のメカニズムについて話し始めた際に、おそらく番組の構成する流れがあったのではないかと推測していますが、気の流れとか東洋医学4000年の歴史といった非科学的な説明を受けたと思いますが世界的に有名な大学でも研究が行われていると粕谷先生が説明しています。補足なのですが東洋医学、こと鍼灸の世界には大まかに伝統的な東洋医学でとらえる考えと現代的な科学で実証しようとする考えの2つがあります。そして専門学校ら鍼灸師になるための養成施設では双方を学びます。気とか経絡とかといった古くからある東洋医学のことを学びますし、同時に解剖学・生理学・病理学といった現代医学(科学)に関することも学びます。国家試験の問題数はむしろ現代医学分野の方が多いくらいです(※双方を組み合わせた問題もでます)。今回の番組の趣旨に合わせていると思うのですが、伝統的な視点はほぼ省いて現代科学で説明できることを述べていると私は感じました。粕谷先生は現代の科学で鍼灸や東洋医学の機序・効能を研究してきた方です。しかし根底には東洋思想に基づいた技術・理論体系があることが前提で、それを(当時では調べることができなかった)科学研究で検証しているということを理解してもらいたと思いました。

 

番組でいうツボとは

番組で粕谷先生が説明していた“ツボ”というのは鍼灸師がいうところの経穴、それも正穴というものになります。WHO(世界保健機関)が認めたのは361個というのはこれです。番組内でいうツボは範囲がかなり狭いと言えるでしょう。世間一般の感覚ですとツボというと広い意味に捉えられています。具体的は足ツボが出てきました。粕谷先生は足裏にあるツボは2つくらいと話していて、スタジオ内のタレントさん達があのよく見る足裏の図は何?というリアクションでした。粕谷先生は「湧泉」と「失眠」(もしくは「裏内庭」)を指して2つくらいとおっしゃったと思われます。「涌泉」は経穴(正穴)ですが「失眠」と「裏内庭」は奇穴といって正穴ではありません。ここら辺は鍼灸師にとって常識なのですが話が複雑になるのでツボ=経穴=正穴とし、「失眠」(か「裏内庭」)に関してはちょっと違うので足裏のツボは2つくらいと断言しなかったのだと思います。そして足ツボはリフレクソロジーというアメリカ発祥のもので粕谷先生のいうツボ(東洋医学の経穴・正穴)とは違いますよと言っています。補足するとリフレクソロジーは反射という意味のリフレックス(reflex)に学問を表す接尾語オロジー(-ology)をつけたもの。反射区といわれる体の状態が現れるゾーンという考えです。経穴が点であるのに対して反射区は面で考えます。患者さんにとってはどちらもツボかもしれませんが経穴を扱う鍼灸師には明確に異なるものなのです。余談ですが古代中国では足の裏を重要視しておらず経穴もまさに2つくらいしか見いだされていません(「裏内庭」を入れても3つ)。対して西洋では足の裏に注目してリフレクソロジーが誕生したということが私は面白いと感じます。似たことで耳ツボもそうです。耳たぶや耳の穴周辺に経穴(正穴)はありません。

 

ツボ刺激が脳に信号を送る

番組で詳しく説明しておりますが全身に分布するポリモーダル受容器から知覚神経を介してに信号が行き、脳内麻薬オピオイドが分泌されることでツボの効果があるとしています。痛覚に関しては一次痛と二次痛があることを説明し、ポリモーダル受容器は二次痛を感知すると説明しました。ツボにはポリモーダル受容器があり知覚神経が密集しているという解説でした。この話は「はりきゅう理論」という教科で学生はしっかり習います。これが現代科学での研究であります。経絡という気が流れるラインがあり、その経絡上に経穴が並ぶ、だから経穴を刺激することで全身や経穴の場所から離れたところにも効果があるのだと説明します。おそらくですが、大昔に数多の経験からここを刺激すると効果があると先人たちが経験で分かったことを体系化していったのでしょう。そこに五臓や陰陽といった考えが合わさっていった。何かよく分からないが効果がある⇒それはこういう理屈なのでは、という順番。さらに長年の経験則を集合させて理論体系していったのではないでしょうか。それを発展した文明の利器で客観的に計測しようとしているのが現代医療の鍼灸であるといえます(細かいところは省いていますが)。ツボの大きな特徴(利点)として離れたところにも効果が出ることが挙げられます。臨床では患者さんから何で腰痛なのに手の甲や膝の裏を刺激するのか?という疑問を持たれるのですが脳への信号を介してオピオイドを活用していると説明できるわけです。

 

客観的なデータ

番組内では、他のテーマに合わせているのもあるのでしょうが、一貫して現代医学的な説明に終始していました。筑波大学理療科で鍼刺激の効果をサーモグラフィで血流状態、心電図で自律神経の割合を客観的に測定しています。受け手の感想という主観的なものではなく、誰が見ても評価が一定である客観的データ。これが本番組の重要なところです。こういったことは日々研究機関で行われていることです。研究結果により新しいことが分かっているのです。ただたった一人の実験で間違いないと結論付けること絶対にしないことを付け加えておきます。粕谷先生ら研究している人は常識になりますが、様々な実験条件を踏まえてなるべく多くの実験数を確保し、結果を統計学的に処理した上で考察を加えます。今回のタレントさん一人で効果があったから絶対に効果があるとうわけではありません。バラエティ番組の特性上分かりやすく見せているのです。もちろん既に研究機関で報告されていることを踏まえていますし、別の研究結果を紹介してもいました。視聴者が情報の精査をきちんとしてほしいです。

 

登場したツボ

・「合谷

手に甲にある非常に有名で重要な正穴。経穴の四天王みたいな立ち位置。番組内で歯の痛みをこらえるときに使うと紹介されていましたが、この話は鍼灸師にとってメジャーなもの。余談ですが私の子どもが小さいときに歯医者が怖いというので虫歯の処置をしている最中、横で「合谷」を押してあげました。

 

・「足三里

足の脛の外側にある正穴。これもとても有名で松尾芭蕉もここにお灸を据えて全国を歩いたと伝わります。お腹周りの症状全般に効果があるとされ、番組内での実験ではサーモグラフィによって腹部の血流が良くなったことが示されていました。

 

・「天枢

へその横にある正穴。胃に関して重要な役割があるとされています(胃の募穴)。番組ではあまり効果が出なかったと紹介されていました。ネガティブなことも伝えるのは科学的で個人的に好印象でした。余談ですが私は臨床でよく使う経穴であります。

 

・「天柱

首の後ろ頭の付け根にあります。片頭痛に効果があるとされています。この付近にある「天柱」、「風池」、「完骨」に鍼をするのは鍼灸師にとって一つの定石といえます。余談ですが粕谷先生は頭痛や後頭下筋群への刺鍼などを研究していました。天柱は粕谷先生が凄く好きな経穴だと思います。

 

・「神庭」?

顔の正面、髪の生え際にあります。名称は出しませんでしたが番組内で刺していました。場所からおそらく「神庭」だと思われます。「上星」かもしれませんが。眼精疲労に効果があるとしていますが頭なので精神面、脳機能に効果が高いとされています。番組ではサーモグラフィの変化が強かったのと被験者の目が充血していたことが印象的でした。

 

いかかでしょうか。番組ではとっつきにくい専門分野をかなり分かりやすく解説していたと思います。その分、厳密にいうとちょっと違うのだけど、そんなに単純な話ではないよ、という専門家の意見も出てくるかもしれません。何にせよ世間に届く内容であったと感じます。個人的には、かつて授業で習った粕谷先生が画面越しに講義をしているような感覚を私は覚えました。

 

甲野 功

 

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