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トミー・ジョン手術をご存知でしょうか。野球が好きな方はよく知っていると思います。メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手をはじめ数多くの野球選手がこの手術を受けています。トミー・ジョン手術について説明します。
トミー・ジョン手術:Tommy John Surgery。側副靱帯再建術と言われます。
肘関節の腱や靱帯の損傷・断裂に対する手術ですが、多くは肘の内側側副靭帯損傷に用いられます。1974年にフランク・ジョーブによって考案されました。初めてこの手術を受けた野球投手のトミー・ジョンにちなんでこうトミー・ジョン手術と言われています。考案者ではなく被験者の投手名が残っているところに野球との関りが大きいことが伺えます。トミー・ジョンが投手だったように、投球動作には肘の側副靭帯に大きな負担がかかります。そのため野球の投手が受けることの多い手術であります。ただ野球以外でもやり投など投擲系の競技者も本手術を受けることがあります。
先にトミー・ジョン手術と私の関りを説明しておきます。私は柔道整復師でもあるのですが、柔道整復師専門学校(東京医療専門学校柔道整復科)時代にトミー・ジョン手術について発表したことがありました。東京医療専門学校の学校法人は呉竹学園といいますが、東京、新横浜、大宮と3校の学校を運営しています。年に一度秋に呉竹医学会という3校合同の研究会を開催しています。鍼灸科、鍼灸マッサージ科、柔道整復科の2年生はクラスから1演題、研究発表することが求められています。私が柔道整復科在学中は東京校と新横浜校だけでした。それでも科によってはⅠ部、Ⅱ部、夜間部とあり、研究会や卒業生、教員も発表をするので演題数はかなり多くなります。それに加えて外部講師の特別講義、実技講義もあります。私は柔道整復科2年生の時にもう一名のクラスメイトと一緒にトミー・ジョン手術について研究したのでした。なぜこの手術を題材にしたかというと、もう一人の研究者が実際に本手術経験者だったからです。それとは別に『K2』という医療マンガでトミー・ジョン手術のことを私は知っていたので、これは面白いのではないかと考えて二人で研究することにしたのです。ですから思い入れがあるのです。
トミー・ジョン手術とはどのようなものか。主に投擲動作で損傷した側副靭帯(それ以外に腱の場合も)を患者の健側(反対側)あるいは患側(同側)の長掌筋から腱を摘出してそれを用いて補強します。投擲動作では肘が外反、外側に引っ張られる力がかかります。そのため肘関節外反を防ぐ作用がある肘関節内側側副靭帯が繰り返す動作により損傷するのです。時にコンタクトプレーなど外力が肘関節にかかって側副靭帯損傷に至ることもあります。自身の腱を用いる自家移植になります。そのため拒絶反応が起きにくくなります。長掌筋は前腕の内側に走る筋肉で長い腱となり手掌(手のひら)の腱膜に付着しています。一応手首(手関節)を曲げる(掌屈)働きがあるのですが微力なもので実際には皮膚を引っ張る作用をします。そのため無くても動作に支障がありません。この長掌筋腱を使って損傷した肘関節の靭帯を補強しようというものです。長掌筋腱は手首の手のひら側に細い線のように浮かんでいます。体表から見ることができます。トミー・ジョン手術を受けたクラスメイトの左手にはこの腱がありませんでした。長掌筋はほとんど必要ないため先天的に無い人もいるとか。その場合は別の部分から正常な腱の一部を摘出して活用します。摘出した腱を上腕骨と尺骨に作った穴に通して肘関節を補強します。これが大まかなトミー・ジョン手術の方法です。
細かくみると術式に違いがあります。それは主に移植腱をどう固定するかによる違いです。発案者であるフランク・ジョーブ医師は上腕骨と尺骨にそれぞれトンネルのような骨孔を開けて移植腱を通し8の字に結びました。これを「ジョーブ法」といい、トミー・ジョン手術と言うとこの術式になります。症例が増えるにつれて新しい術式が生まれていきます。「ドッキング法」や「一束法」といったものが生まれました。わが日本でも慶友整形外科病院(群馬県館林市)の伊藤恵康先生が考案したもので上腕骨に1つの孔を開け、そこに他のところから採取した骨で作った骨釘により移植腱を固定するという「伊藤法」があります。柔道整復科で一緒に研究したクラスメイトはまさに慶友整形外科病院で「伊藤法」のトミー・ジョン手術を受けたのでした。更に近年は人工靭帯を用いた治療法も確立されており、トミー・ジョン手術と併用するハイブリット手術も登場しています。私が研究したのはもう15年くらい前のことです。その間に医学の進歩がみられます。
なお巷ではトミー・ジョン手術をすることで投球速度が速くなる、対して肘を損傷していないのに手術をするという話があるようです。これは多くの医師が否定していることでトミー・ジョン手術をしたことで結果的に以前よりもパフォーマンスが上がったということ。厳しいリハビリテーションを乗り越えた結果。また投球練習ができないときにしっかりと下半身トレーナーを行い、また疲弊した肉体をしっかりメンテナンスできたからだと。特に体が成長しきっていない10代半ばの手術は避けるべきだと言われています。呉竹医学会での発表も手術そのものよりもリハビリテーション計画、そして何を治療のゴールにするかがもっとも注目したものになりました。
トミー・ジョン手術は一般の方でも耳にする、固有名詞のつく手術名ではないでしょうか。普段は柔道整復師らしい内容を書きませんが日本人野球投手がトミー・ジョン手術をするというニュースを目にして紹介しました。
甲野 功
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