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先日Googleマップの口コミ投稿に対する問題で日本の医師らが米国Google社に対して提訴を起こしたというニュースが出ました。
NHKニュース
2024年4月18日20時00分
どのようなものかというと
『
グーグルマップに表示される「クチコミ」に、不当な内容が投稿されても削除してもらえず、利益が侵害されたなどとして、都内の医師など63の個人と団体がグーグルに対し、あわせて140万円あまりの損害賠償を求める訴えを起こしました。
』
というものです。
今や誰でも利用している検索サイトの王者、Google。その特徴の一つにGoogleマップがあります。詳細な地図と商業施設、公共施設を問わず情報が掲載されており閲覧することができます。移動ルートを調べることもができ、徒歩、自転車、バイク、自動車、公共交通機関といった移動方法すらも選択できて所要時間の概算も出ます。コロナ禍で広まった個人宅配配送でもGoogleマップの存在が無ければ実現できなかったでしょう。私も旅行や初めて訪れる場所には必ず利用しています。
Googleマップにはポータルサイト(口コミサイト)の機能が実装されています。各施設に対して情報を掲載でき、かつ一般利用者が自由に評価を書き込みことができます。ポータルサイトとしては国内ではエキテン、食べログ、ホットペッパーらが有名でしょう。消費者はこれらのサイトを見て口コミを参考にお店を選ぶことができます。
今回の提訴した主張によれば、医療機関のGoogleマップに対して事実と異なる口コミ内容、理不尽な最低評価、純粋な誹謗中傷などが繰り返し投稿され評判が落とされる、さらに運営元のGoogle社にこれらの口コミの削除を依頼しても対応せずに放置したまま。閉院、自殺まで追い込まれている人もいるというのです。これまで一部で問題視されてきたのですが今回正式に法的手段に訴えたということです。
ポータルサイト、Googleマップ、口コミ、評判、経営。私も個人事業主として鍼灸マッサージ院を運営する立場。Googleマップにも掲載しています。医療機関ではありませんが開設には所轄の保健所への届け出、現地検査、指導下にあるという点で近しい立場であります。このニュースを私の立場から考えてみたいと思います。
まず医療機関、具体的に病院、クリニックらについて。これらは一般的な飲食店や娯楽施設と状況が異なり、医療法という専門の法律があります。医療は国民の生命を守る重要なものであるのでそれを実践する施設である医療機関には様々な制約があります。例えばマッサージ院、鍼灸院、接骨院らの開業が法的に認められた者による施設(法律用語で「施術所」という)は「届出制度」といって先に開業してしまい、その後に開業したことを保健所に届出を出すのです。対して医療機関は「許可制度」でまず保健所らに書類を提出し開設許可が降りないと開業できません。最初のハードルが違うのです。それだけの責任があるのです。当たり前ですが杜撰な設備の病院があったら困るでしょう。レントゲン撮影には放射線を使います。MRIには強力な磁力を利用します。容量を間違えれば死に至る劇薬も扱います。
次に厳しい広告制限があります。元々広告できる内容はほとんど無いのです。医療機関名、診療時間、対応する科、電話番号、休診日くらいです。料金、施設内の写真、スタッフの名前など広告できないのです。明確に法律で広告して良い項目が列記されています。ところが時代が流れて法成立時と状況が変わりホームページは広告に含まれないという判断となりました。医療機関を利用する患者さんは病院の情報が知りたいという要望に応えるためです。更に時代が進み、医療広告ガイドラインが整備されてきて数年前にホームページも広告に該当する(=規制対象にする)という判断になります。現在もホームページの内容及びネット広告やSNS投稿内容についてガイドラインの調整が続いています。
つまり医療機関は一般的な消費者が利用する店舗や施設とは前提となる条件が異なっています。集客をしてはいけないと言わんばかりの制限。これはそれだけ社会的責任、影響力があるからだと言えるでしょう。提訴した現役医師がコメントしたものに、患者に対する(法で定められた)守秘義務があるため口コミを入れた者が本当に受診した患者なのかを確認することもできない、とありました。医療機関側は投稿された口コミ内容を(誰もが閲覧できる口コミ上での)やり取りによって訂正を求めたり指摘したりすることができないのです。これでは一方的にいいように書かれてしまい『サンドバッグのような状態』になっていると言います。
この記事とは別に、原告の木村(仮名)医師がニュース番組で語った内容で、医療は一般的なサービスと異なり高度な専門性を用いて行うことであることを指摘しました。感染症対策や医療リソース(資源)を考慮すると受診を断り別の医療機関を紹介することもあるし、不必要な検査や薬の処方もしたくない。患者の望み通りのことをすることはできないと訴えました。医師には応召義務(医師法19条1項「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」)がありますが、医師による適切だと判断される状況においては受診拒否もやむを得ないでしょう。口コミに思い通りにならなかったらと低い評価を付けて投稿するという状況。更に明らかに受診したとは考えられない内容でも守秘義務のため追及ができないのです。原告の主張としてGoogleマップの口コミは医療機関を判断するのに有効と思われているが実際にはそうでない、高い専門性を有するため患者側の主観だけで評価することは困難であるといいます。
視点を変えて医療機関を利用する患者側の事情を考えてみましょう。かつて医師は「お医者様」と立場のある、あたかも特権階級のような雰囲気がありました。特に戦後の苦しい時代を過ごした人には薬、医療が満足にないために命を落とす者もいました。生命と直結する職業であるのだから貴重ですし尊敬する対象です。一方、パターナリズム(父権主義)という言葉が存在し、医療の専門家たる医師の言うことを患者は素直に従っておけばいいのだという、いき過ぎた考えもありました。いわゆる「患者の権利宣言(リスボン宣言)」が登場するのは20世紀の後半。ドクターハラスメント、ドクハラという言葉が存在するように(医療を受ける側からすると)立場が上である医師による高圧的な態度に悩まされた事例もあります。実際に私も家族でドクハラだとはっきりと感じる場面に遭遇したことがあり、ボイスレコーダーを持参して診察の付き添いに行ったこともあります。現在のコンプライアンス意識が高まった現代でも、このようなことが局地的にあるかもしれません。利用者たる患者側には忌憚ない口コミは参考になる部分があるでしょう。
インターネットが普及していない頃は本当の口コミ、噂や評判が大きかったです。対面で交わされる情報交換。私も地元で開業しているため、地域の医療機関に関する意見、評判、噂をよく耳にします。その情報が引っ越してきたばかりで土地のことが分からない患者さんに対して有益になることがしばしあります。どこの病院にかかったらいいのか。それはとても不安です。情報を得るのにインターネットを活用するというのは自然のこと。誰もが情報を持っている人と接点があるわけでないわけです。ただ対面における話は相手の顔が見えていて表情や口振りから文字以上の情報が得られます。どのような立場で話しているかも。匿名の誰だか分からない、ひょっとすると全く関係のない者がGoogleマップに口コミを入れているかもしれません。情報を得るための精査、いわばファクトチェックが必要になっています。ある歯科医がネットの誹謗中傷を受けたので情報開示請求をして書き込む者を特定したところ、同業者が行っていたということがあったそう。実は患者でも何でもなく足を引っ張るために書き込みをしていた。有益な情報を皆さんに知ってもらいたいという善意の口コミだけではなく、相手の評判を落とすための悪意の口コミも存在するのは確かです。口コミ内容を鵜呑みにしないように利用者はその投稿者が他にしている口コミをチェックする必要があるでしょう。
ではGoogleマップを運営するGoogle社はどう対応するでしょうか。裁判という司法の場に判断される状況になりました。世界的企業に対して日本の医師らが提訴したという事実が大きく注目されています。日本には医師法、医療法、医療広告ガイドラインといった(いわば日本の)ローカルルールが医療機関に課されています。アメリカの企業がその状況を加味するとはなかなか考えられないかもしれません。提訴した医師らは医療機関だけの問題ではなく全業態にも関係するプラットフォーマーの責任に関することだとしています。確かにより大きな視点でみると医療機関だけの問題に収まらないでしょう。私もGoogleマップに登録している個人事業主として関係があります。今後どのような流れになるのか注目します。
甲野 功
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