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~SECIモデル~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 SECIモデル
SECIモデル

 

 

以前から何となく耳にしていた「SECIモデル(セキモデル)」という言葉。これは経営学者で一橋大学名誉教授、カリフォルニア大学バークレー校特別名誉教授である野中郁次郎氏が提唱した概念です。野中氏は日本を代表する経済学者で、以前読んだ以前三谷宏治著『マンガ経営戦略全史』や『マンガビジネスモデル全史』でその名前を知りました。「知識経営(Knowledge Management)」の観点から生まれのたがSECIモデルです。以前紹介した「形式知」と「暗黙知」が組み込まれています。今回はSECIモデルについて書いていきます。

数値やマニュアルで示すことができる客観的なノウハウを形式知、経験や勘に頼ったはっきりと言語化できないノウハウが暗黙知。大雑把に分けることができます。私の本職である、あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、そして柔道整復師の業務は職人技の部分が多く、暗黙知がとても重要です。特に鍼灸は悪く言えば曖昧でひとそれぞれというところがあります。鍼灸師を養成する鍼灸専門学校では形式知を教えることはできますし、国家試験という国が管理する筆記試験でその習熟度を客観的に判断することができます。ところが実際の臨床に関わる技術というのは暗黙知が必要です。それは人様に触る仕事である以上必要不可欠で、熟練するほど理屈ではない感覚的なものが出てくることです。それはあん摩マッサージ指圧師も同様です。何より東洋医学、伝統医学というものが形式知よりも暗黙知を優先している傾向があります。後進を育成することに関して形式知と暗黙知をどのように扱うのかは大きなテーマになるものだと私は考えています。

 

野中氏は経済学者で企業経営のために導き出したSECIモデルですが、我々の教育にも応用できるものだと思い、学んできました。今回、西原(広瀬)文乃著『マンガでやさしくわかる知識創造』(日本能率協会マネージメントセンター)という書籍で具体的なストーリを踏まえて解説されています。その内容を参考に説明します。2020年(令和2年)に出版された『ワイズカンバニー』(日本語版は黒輪篤嗣訳、東洋経済新報社)に示された、より精緻化された内容からです。

 

まずSECIモデルの4つのアルファベット、SECI。これは以下の用語を示しています。

 

S:共同化 Socialization

E:表出化 Externalization

C:連結化 Combination

I:内面化 Internalization

 

Sの共同化。これは知識が個人同士から個人間へ暗黙知から暗黙知、変化することです。

Eの表出化。これは知識が個人間からグループへ暗黙知から形式知、変化することです。

Cの連結化。これはグループから組織・社会へ形式知から形式知、変化することです。

Iの内面化。これは組織・社会から個人へ形式知から暗黙知、変化することです。

SECIモデルとはこの変化が巡り続けていくものです。

 

鍼灸師を具体例にとって一つ一つ説明していきます。

 

まず一人の鍼灸師がいます。その人が臨床上で見つけた・気付いた、ノウハウのようなテクニックがあるとします。エビデンスレベルでいうと最下層の“個人の意見”です。しかし臨床経験を重ねて再現性も出てきて、その機序も仮説を出せるようなものになってきました。そのテクニックを他の鍼灸師に話します。同業の鍼灸師はそれは面白いと真似てみて検証をはじめます。鍼灸師という共通の知識と技術を最低限有している環境だからこそ、説明しづらい鍼灸独特なニュアンスやノウハウ(暗黙知)を共有することができます。ただし個人間のやり取りにすぎません。これが共同化S(Socialization)にあたるでしょう。

 

続いてそのテクニックを勉強会や職場といった二人が所属するグループで情報共有します。その際に個人での経験が蓄積されてある程度説明できる状態になっています。臨床経験は症例報告として整理されます。それにより所属するグループではそのノウハウを共通認識として持つようになります。個人間で持っていた暗黙知をグループでの形式知にしました。場合によってはそのグループ独自のテクニックになるかもしれません。これが表出化E(Externalization)にあたるでしょう。

 

グループで共有したテクニックはメンバー間で更に臨床で実証が進みます。データが蓄積されていきます。そこで学術大会で発表することにします。そうすることでグループだけの知る人ぞ知るテクニックだったものが広く業界に知られることになります。そうなることで鍼灸業界に情報が広まりさらなる検証や研究が進むことになります。グループの形式知が組織・社会への形式知になっていきます。論文や研究が精査されてシステマティックレビューとして一般知識となるかもしれません。この段階は連結化C(Combination)になるでしょう。

 

教科書に載るような業界内で誰でも知るようなテクニックなったもの。その内容を個人の鍼灸師が学び、臨床現場で扱ってみる。そこからアレンジされて新たなその鍼灸師個人でのテクニックやノウハウが生まれてくる。組織・社会から得た形式知が個人の暗黙知に変化する。また個人のいち鍼灸師に還元される。これは内面化I(Internalization)にあたるでしょう。

 

そしてまた個人(鍼灸師)の暗黙知(テクニック)が別の個人(鍼灸師)に伝わる共同化Sという課程になる。

 

おそらくこれまでの鍼灸技術は程度の差はあれ、SECIモデルで説明できる行程を経て普及していると思われます。現在あるどんな流派、技術、理論も。あるとき天才の鍼灸師が画期的な方法を編み出す。それを周囲に伝えブラッシュアップされる。集団でその方法を共有し一つの流派になる。その流派は組織となり学会発表や書籍出版、勉強会開催などをして広く方法を広めていく。そして業界のスタンダードとなり不特定多数の鍼灸師がそれを学ぶようになり、そこからインスパイアされた個人がまた新たなやり方を生み出す。このような流れがあったものだと考えています。ちょうど鍼灸の歴史、鍼灸教育の歴史を勉強しているところです。的外れな考察ではないと思われます。

暗黙知暗黙知)、暗黙知形式知)、形式知形式知)、形式知暗黙知)。やはり難しいのは暗黙知→暗黙知のところでしょう。個人のノウハウを個人に伝える。これがいわゆる師匠弟子制度のように長時間生活を共にして“見て覚える”、“技術を盗む”に通じるのでしょう。言葉で説明しきれないから暗黙知であるわけで。そして暗黙知形式知というのが明治維新と戦後にあった「鍼灸の科学化」だったのではないでしょうか。文明開化の明治、西欧列強に追いつくために古い臭いとされた東洋医学を捨てて西洋医学(現代科学)に舵を切ろうとした政府は鍼灸を禁止しようとしました。また戦後GHQは鍼灸が野蛮で非科学的なものだとして制限する方針を出しました。それにより、鍼灸を現代科学で研究し教育方法を改善する必要に迫られるのです。そして現在、専門学校等の鍼灸師養成施設では教科書に書いてある内容の形式知から、生きた技術となる暗黙知へどう教えるかが課題です。形式知だけで成り立つのであればAIと器械が鍼灸を行えるはずです。そうはいかない曖昧なところがあるのが鍼灸です。

※前回、暗黙知=東洋医学・陰、形式知=西洋医学・陽とする陰陽論で暗黙知と形式知を考え見ました。SECIモデルを陰陽論で考えると陰陽変化であるとも考えられます。

 

さてSECIモデルは一周したら終わりというものではありません。どんどん回っていき知識が創り続け、らせん状に上昇していく必要があるとしています。SECIモデルは回り続けないといけないのです。それは感覚的に分かります。企業でも業界でも知識が循環して創造されていかないと衰退を招きます。SECIモデルを回すところを「場(Ba)」と野中氏は定義しております。そしてSECIモデルを回すには“良い「場」”が必要だと。この「場」についてはまた別の機会に触れますが貴重な概念で、鍼灸の教育そして業界の在り方に必要な考え方だと思いました。

 

今回はSECIモデルを紹介し、それを鍼灸業界に当てはめて考えてみました。具体的にどのように暗黙知を取り扱うのかは考えがまとまっていませんが、暗黙知⇔形式知という相互の関係があり、一つのモデルとして提唱されていることを知っただけでもいいのかなと思います。

 

甲野 功

 

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