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コロナ前の観光人気に戻ったどころかオーバーツーリズムという観光公害が問題視されています。こういうときに不思議なのは日本屈指の観光地、神奈川県の箱根。ここもコロナ前も最近も大勢の観光客でごった返していますがあまりオーバーツーリズムの問題を耳にしません。京都はバスが乗れない、マナーが悪いとよく報道されている気がしますが箱根に関してはまず目にしません。私自身、箱根湯本駅からバスに乗るときも大混雑になるのは何度も経験しているのですが。
箱根がオーバーツーリズムで騒がれない理由として交通網の充実、つまり選択肢が多いことが一端なのかと考えられます。自家用車とタクシーを除外しても公共交通機関の選択肢が多いのです。箱根に行くにしても新宿から小田急線、東京駅からJR東海道線、東海道新幹線で小田原まで行けます。小田原から先は箱根登山電車、路線バス。箱根湯本からは本格的に登山電車で登る、バイパス道路で路線バスが芦ノ湖まで行く、各方面に路線バスがある、という感じ。バスは運営会社が2つあります。仙石原という比較的奥の方にある箱根ガラスの森美術館(ここによく行くのですが)だと新宿から高速バスが出ています。また御殿場方面から箱根に向かう高速バスもあります。芦ノ湖にいくと箱根海賊船と箱根遊覧船という2種類の船が出ています。個別にチャーターするボートや水陸両用の忍者バスも芦ノ湖では利用できます。更に前述した箱根登山電車に箱根登山ケーブルカー、箱根ロープウェイ、駒ケ岳ロープウェイまであります。交通の選択肢がこれだけあるのです。
ではこれだけ複数の交通手段があるのはなぜかと言うと話。それは非常に険しい地形のためでしょう。盆地で平地の京都は道路、バス、地下鉄、鉄道が作りやすいわけです。比叡山に行くとなるとまた話は変わりますが。箱根の場合、山です。江戸時代から箱根越えが大変でした。そのせいで宿場町として小田原が栄えたわけです。簡単に鉄道や道路が作れないからケーブルカーやロープウェイ、登山電車が必要になったわけです。険しい山の斜面を通るのに用いられる交通機関がケーブルカー。今回は箱根登山ケーブルカーのお話です。
箱根ゴールデンコースというものがあります。これは箱根湯本駅から出発し、箱根登山電車で終点強羅駅までいきます。強羅から箱根登山ケーブルカーで早雲山駅へ。早雲山駅から箱根ロープウェイで大涌谷を経由して芦ノ湖ほとりの桃源台駅へ。そこから芦ノ湖を箱根海賊船で箱根町港へ。最後は箱根登山バスで箱根湯本駅まで戻ってくるというコースです。定番のルートで、私が働いていた職場でスタッフを箱根旅行に連れて行ったときもこのコースにしました。これは昭和35年(1960年)に箱根ロープウェイ全線開業したことで完成し、60年以上の歴史があります。私が保育園のときも家族でこのルートで一周したもので、後に親となり我が子を連れていきました。このゴールデンコースでは地味ですが重要なのがケーブルカー。山の斜面を真っ直ぐ登っていきます。
箱根登山ケーブルカーは強羅駅から早雲山駅間の標高差209m、距離にして1.2kmです。時間にして約10分。ゴールデンコースで最も乗っている時間が短く距離もありません。1km弱ですから歩けない距離ではないのですがその坂道は非常に急です。強羅から上の方に企業や自治体の保養所が多数あったのですが、そこに行くのに歩くとなると想像以上に大変です。始発強羅駅と次の駅である公園下駅は標高で3mしか変わりません。公園というのは強羅公園のことです。たかだか3mと言いながらも歩くと急な坂を登るのです。箱根美術館という紅葉が非常が美しい美術館がその先の公園上駅にあるのですが強羅駅から歩いて登るのは山岳部だった私でもちょっと尻込みします。本当に急なのです。このようにたかだか1.2kmといえど無いと困るのです。
箱根登山ケーブルカーの開業は大正10年(1921年)。つい数年前に開業100周年を迎えたところですね。ケーブルカーは正確には鋼索線といい、正式には『小田急箱根鋼索線』になります。国内では大正7年(1918年)に奈良県の生駒鋼索鉄道(生駒ケーブル)が初めて、箱根登山ケーブルカーは日本で2番目、関東では初の鋼索鉄道なのです。そもそも造られた理由は明治末期の1911年に強羅の土地を現在の小田急箱根グループが取得し旅館や別荘地として販売を行っていて、利便性を高めるためでした。傾斜が急で利用者が苦労するわけです。当初は巻き上げ装置から車両まで一切を登山鉄道の本場、スイスから輸入していました。大正12年(1923年)に起きた関東大震災で被害を受けて運休しています。そして第二次世界大戦が激化した昭和19年(1944年)に不要不急路線として売却、撤去されました。鉄材が不足していた時代です。戦後の昭和25年(1950年)に運転を再開しました。箱根ロープウェイが全線開通する10年前ですね。輸送力強化のため平成7年(1995年)からスイス製の車両による2両編成での運行が開始されます。更に令和に入ると設備更新工事が行われることになり令和2年(2019年)に運行休止になります。この年は10月に超大型の台風19号により箱根登山電車が壊滅的な被害を受けた年でもあります。箱根登山ケーブルカーは翌令和3年(2020年)3月20日より5代目となる新型車両での運行が再開されます。奇しくも同年7月23日には、台風で崩落した線路を奇跡的なスピードで修復した、箱根登山電車も運転再開をしています。この時期は新型コロナで日本経済が非常に停滞していた時期。観光地箱根とっても明るい兆しだったと思われます。そして令和3年(2021年)に箱根登山ケーブルカーは開業100周年を迎えたのでした。途中様々な困難を乗り越えて1世紀に渡り運行されているのです。ちなみに今年令和6年(2024年)4月1日に小田急箱根グループは組織再編となり株式会社小田急箱根に社名変更しました。そのため箱根登山ケーブルカーの運営会社も社名が変わりました。
現在の車両は2020年3月にデビューした5代目のケーブルカーでかなり新しいです。ケーブルカーの特徴として上下に行き来する車両が途中ですれ違うことです。1つの線路がその所だけ分岐しています。単線なんので工事費用が抑えられます。駅で待っていると上から、あるいは下から、段々と車両が近づいてくる姿が印象的です。急勾配の斜面を真っ直ぐ進むため車内は階段状に椅子が置かれています。箱根登山電車は水平に置かれているのでその違いを強羅駅で乗り換えて確かめることができます。
箱根ゴールデンコースでいうと、スイッチバックを繰り返して山道を数十分かけて登ってきた箱根登山電車と山を空中から越えて大涌谷に向かう箱根ロープウェイの間にある、箸休めみたいな存在です。その代わり一直線に山の斜面を登っていくことで次のロープウェイまでの期待が膨らみます。早雲山駅で景色を楽しみながら休憩して大涌谷に向かう人も多いのでケーブルカーがあることで良い観光導線になっていると思います。
バスでもタクシーでも行けますし、頑張れば歩ける距離の強羅と早雲山を結ぶ箱根登山ケーブルカー。忘れてはいけない存在です。
甲野 功
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