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日本を代表する経営学者で一橋大学名誉教授、カリフォルニア大学バークレー校特別名誉教授である野中郁次郎氏。野中氏が「知識経営(Knowledge Management)」で提案したものに「場(Ba)」の概念があります。「SECIモデル」は以前から知っていたのですが、西原(広瀬)文乃著『マンガでやさしくわかる知識創造』(日本能率協会マネージメントセンター)を読み、「場」というものがあることを知りました。
「場」というのは日常会話で用いられる特段変わったものではありません。ところが野中氏はこの「場」という言葉に特別な意味を持たせており、「場」を「共有された動く文脈 (Shared context in-motion)」と定義しています。“共有された動く文脈”というのはどういうことか。抽象的で、文学的であるとも感じます。この定義の意味は「人と人とが同じ文脈(背景や状況など)を共有して、お互いの主観(その人ならではの世界のとらえ方や考え方)を受け容れている状況」であると説明しています。さらに簡単にする「人と人との関係と交流そのもの」が「場」だというのです。社会的な面で“場”と言えば人が集まったところが思いつくでしょう。発表の場、交流の場、場面、場の空気、といった。人が複数名集えばいわゆる“場”になりますが、ここでいう「場」は集まった人達の間にお互いを受け入れる関係性が作られることで生まれます。よって一般的に用いられる“場”よりも「場」の方が、条件が厳しいというか大変です。野中氏は「場」を英語で表記するときはローマ字で「Ba」と表記するそうです。「space」や「field 」では「場」のニュアンスが十分に伝えられないためです。BaはBar(バー)に通じるといい、お酒を飲みながら談笑するようなイメージもあるようです。
共有された文脈(=背景や状況)、受け入れられた主観(=その人ならではの世界のとらえ方や考え方)。これがあるのが「場」。それがあればオンラインのコミュニティでも企業でも部活でもボランティア活動でも「場」が形成させるということです。「場」によって新たな「知識」が生まれる。ここでいう「知識」というのは単なる情報ではなく社会が良くなるための施策というような大きな意味が含まれています。このような新たな「知識」が生まれる「場」の条件として
①メンバーが「場」にコミットしていること
②目的をもって自発的に組織されていること
③感性・感覚・感情が共有されていること
④メンバー間の関係の中で自分を認識できること
⑤多様な知が存在していること
⑥「場」の境界は開閉自在でつねに動いていること
の6つを挙げています。①~④は最低限の条件という感じで、いやいや参加していてもだめですし、何の目的で行っているのか分からないものもいけません。同じ向きをむいており、発言しやすく、個性を尊重できる状態。そこに⑤のたくさんの知(「知識」ではない。情報、考え方というニュアンス。)が「場」にあった方が好ましい。そのためには⑥の境界が開閉自在で出入り可能、かつ境界が常に動いている状況が「場」には必要だというのです。
かつては門外不出、一子相伝といったように優れた技術は流出しないように囲って守ったものでした。このネットが発達した情報社会ではそれは難しく、それよりも「オープン・イノベーション」といって情報やノウハウを外に公開して他の力と共同で新たなビジネスを生み出すやり方が増えてきています。一人の人間が一つだけのコミュニティに属するというのはまずないことです。家族、学校、職場、趣味、地域、SNSといったように複数の関係性があるのが一般的です。これらを「場」とすれば個人が架け橋となって「場」が繋がります。このような複数の「場」が繋がる現象を「知の生態系」と呼んでおり自然の生態系になぞらえています。これにより九通の目的の実現に向けて新たな「知識」が創られ、協働や共創が進められていくといいます。
この「場」のことを知ったときに思ったことは物理学の“場”でした。具体的には磁場、重力場、電磁場といったもの。ポテンシャルエネルギーの分野です。古典力学には運動エネルギーと位置(ポテンシャル)エネルギーの2つがあり、相互に変換可能です。位置エネルギーとはある“一様な場(フィールド)”があり、どこに位置しているかで内在するエネルギーが変わるものです。具体的には地上60階のビルの屋上から小石を地面に落とせば強烈な殺傷力を持ちますが、5cm上から地面に落としても大したことはありません。これは地上数百mという高さがエネルギーになるということです。小石そのものはどの位置にあっても同じですが、高さという位置が違えば内在するエネルギーが違うのです。重力が一様にかかっている場(重力場)ではそのような現象がおきます。無重力状態の宇宙空間ならばこの現象は理論的に起きません。また位置が違うといっても横にずれているだけで高さが変わらなければ位置エネルギーは変わりません。「場」の概念は社会性に基づいた概念ですが、物理学を大学で勉強した私にはニュアンスが異なりますが、場(Ba)と場(field)がエネルギーを内在していると感じました。
また「場(Ba)」がとても大切であることも実生活から実感しています。学生までは学校というある意味で共通の強制的なコミュニティがありました。会社員をしているときも。大学の部活動も。それが独立開業すると家族や地域、母校といったコミュニティはありますが、新たな「場」に参加する、そして「場」を設けることが大切なことだと痛感します。強制的なイベントがありません。一人で職場にいるので患者さん以外に家族外との接点がなくなります。団体、勉強会など自ら「場」に参加しないと交流も外部からの刺激もありません。また自分の場所を持ったことであじさい鍼灸マッサージ治療院を使用した「場」を設けることができるようになりました。そこで時に初対面の人が集まり話をする。これらによって新たな「知識」が生まれ、その先の仕事に繋がることがたくさんありました。待っているだけではいけない。「場(Ba)」の大切さが身に沁みます。概念を言語化して経営に結び付けた野中氏。何となく誰もが重要なことだよねと感じ取っていたことを定義して理論化したのです。
奇しくも先日、人生初のBARというものに足を踏み入れました。酒が飲めない私には関わることがなかった場所です。そこは<東洋医学を語る>という共通テーマがありました。そのBAR(場:Ba)から生まれた物事が大小あったと思います。「場」に参加し「場」を作る。職“場”だけでなく個人の仕事にも必要です。
甲野 功
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