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~初めて鍼治療を受けた芸人さんのエッセイ~

ブックバン 僕の人生には事件が起きない 岩井勇気(ハライチ) より
ブックバン 僕の人生には事件が起きない 岩井勇気(ハライチ) より

 

 

ハライチというお笑いコンビがいます。現在、フジテレビでお昼の生放送帯番組の司会を担当する一流芸能人といってよい芸人さんです。そのハライチのメンバーの一人が岩井勇気さん。かつては相方の澤部佑さんに比べてテレビ番組の露出が低く、“腐り芸人”などと称されていました。いわゆる毒舌を得意としていて、己のお笑い論を語り納得いかないことにははっきりとNoを突き付ける芸風でした。私は今のように昼間の番組で司会をするようになる前から深夜放送の番組でよくその姿を拝見していました。結構好きな芸人さんです。

 

その岩井さんが書いたエッセイ。初めて鍼を体験した様子を書いたものがあります。

2023/07/14

「必殺技を出すかのような手つきで暴れさせてくる」「ツーッと何か生温かいものが」足の指を握り締めて必死に耐えた体験 ハライチ岩井が語る

 

この内容を読んだときに私はかなり嫌な気持ちになり、また危機感を覚えたものでした。

 

どういう内容かというと首の不調を抱えた岩井さんは、親しい友人にそのことを相談したところ、鍼灸院を勧められます。鍼を受けたことがなかった岩井さんは不安になりながらも友人が行ったことのある鍼灸院を予約したのでした。そこで初めて体験した鍼がとても辛かったというものです。そしてその描写が非常に生々しい。

 

この文章を読んだときに鍼をする側である私はとても複雑な気持ちでした。また一視聴者としてテレビ番組を通じて岩井さんの芸を楽しんできた者としても。

 

まず前提として岩井さんは病院に行くのが好きではなく『大体の体調不良は根性で治ると思っている』としています。高校生のときには受診を怠って大変な目に遭ったことを引き合いに出すも、本音としては行きたくということを述べています。そんな岩井さんですから初めての鍼治療は不安でありました。友人の話からその不安を払しょくして鍼灸院へ向かうも、店構えから再び不安に襲われます。『予約時間が迫っていることに背中を押され、恐る恐る扉を開けてみる』という描写からもその心境が伺えます。私もそもそも鍼を受けるのが本当に苦手だったのでこの気持ちがよくわかります。一人の患者さんのリアルな心理描写だと思います。

岩井さんは鍼を受けるのは初めてだと伝えるも、首に100本も刺すという想像を超えた刺激。痛くないと友人に聞いていたのに痛い。更には出血する。終わったほっとしていると鍼が刺さったところを撮影したのでスマートフォンに送りますねと言われ、憤慨する。そして文末は『二度とあそこへは行かないと誓うのだった。』と締められています。

 

同業者の鍼師としてその鍼のやり方には色々と言いたいことがあります。それは置いておいて、やはり接遇面、患者さんへの態度が気になるのです。鍼が初めてで不安だと思われる初診患者さんにそれだけの本数を刺すのかということ。説明をしていますが、鍼が初めての人にとってはそれがどういうことになるのか判別はできないでしょう。岩井さんは痛みに耐えるのでした。途中で患者さんの状況を確認しない。術者は岩井さんが痛みに耐えていることを察知できなかったのでしょうか。更に出血してしまう。鍼を体内に刺入していていれば出血することは確かにあります。ただ刺している状態で血が出るというのはなかなかありません。更に垂れてくるほどの量とは。それが仕方なかったことかもしれませんが術者の対応は芳しいものではなかった。それは患者である岩井さんの主観となりますが、臨床に出ている以上患者さんの気持ちが答えであります。

 

このエッセイを読んだときに感じたのはエンターテイメントになっているのか?という問いかけが自分の中でありました。私も日々、文章を書いているので書き手の心情が何となく文字から伝わるものです。岩井さんはマンガの原作を担当し、書籍も出版しています。文才があるはずです。その岩井さんの文章から、芸人らしく笑いやユーモアがあるのかと問うと、私はあまりそれが感じられないのです。過去に芸人さんのエッセイ本を購入して読んだことがありましたが、そこは日常のトラブルやアクシデントを笑いに昇華しているものでした。読後感がいいというか。岩井さんの文章には、ボサノバがデスメタルが流れているようだった、術者を犯人のように表現して『でも確かに現場に血は流れたのだ』と賑やかしているように書いています。芸人の自分がこんな辛い目に遭ったのですそれを笑ってくださいね、という文章にも読めなくもないのですが、なんとも描写が生々しい。少なくとも何も知らない人がこのエッセイを読んで鍼灸院にかかろうと思うかというと答えはNoではないでしょうか。

 

なぜ私がこのエッセイを取り上げてうだうだ書いているかというと。この前に既に岩井さんはラジオでこの体験を話しているのです。それはネットニュースになりました。

 

ハライチ岩井が初体験したハードなハリ治療「体感、頭からおでこ、突き抜けてますよ」

記事投稿日:2023.02.26 11:00 最終更新日:2023.02.26 11:00

 

私はこのネットニュースを見ていたのでハライチの岩井さんが初めて鍼を受けて出血したということを知っていました。このときは芸人さんのエピソードトークとして消化した、笑い話にして納得した、と思っていたのです。同じ内容でも話すことで口調、抑揚などで受け取り側の印象が変わります。ラジオで話すくらいなのでリスナーに喜んでもらえるものという内容だったのだと。芸人さんですから内容を少し誇張して話すこともあるでしょう(いわゆる話を盛るという)。そのように私は捉えていました。ところが、更に長文のエッセイになっていることを知り、驚いたのです。文章にするならばラジオで話すより内容を精査して書けます。反面、文字だけなので印象は比較的冷たくシビアになるものです。なによりラジオで話しただけではなく、文章におこし公開しているところに岩井さんの感情がおさまっていないのではないかと感じ取りました。文章の最後はこう締めくくられています。

それから1週間ほどで首の痛みは無くなり、鍼の穴も跡形も無くなった。鍼治療のおかげで痛みが引いたと思いたいが、正直それが正しいかどうかは分からない。

だが鍼灸師から送られた、首に鍼が100本刺さった自分の写真を見る度に、二度とあそこへは行かないと誓うのだった。

この最後はエンターテイメントなのでしょうか。

 

ここまで書くということは相当なことだと思います。影響力がある芸能人にこのようなことを書かれたら正直、たまったものではありません。鍼灸院、鍼灸師側からすると大きなダメージです。また友人の紹介で行ったということはその友人にも泥を塗るようなことになりかねません。結局痛みは消えました、鍼治療は相性があります、僕には辛かったです、などのこの術者に対する気遣いの言葉がなく。最初から最後まで酷い目にあいました、というスタンスなのです。岩井さんらしいと言えばそうかもしれませんが、腐り芸人として毒舌を吐いていた頃ならまだしも、一般人に対するいわば“いじり”にしてはえげつないなと思います。それだけ不快だったのではないでしょうか。ラジオ内容をニュースにしたネット記事の内容とエッセイの内容に相違があることも気になりましたし。ラジオでは笑いにしたけれど、エッセイでは笑いになっていない感じです。

 

著名人が鍼灸を受けて話題にすることがたまにあります。私は鍼灸師ですからそういった情報は耳に入ります。これだけはっきりとネガティブに書かれることは珍しいです。エピソードトークでこんな目に遭いましたということとは違う、しっかりと書かれた文章で。SNS投稿の短い文章でもなく。鍼灸師として貴重な意見として受け止めないといけないし、このエッセイはネット上で公開されているという現状も知っておかないといけないと思います。

 

甲野 功

 

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