開院時間
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鍼灸師、というよりはり師の世界では「良導絡」という言葉が知られています。昭和25年(1950年)に中谷義雄という医学博士にとより、京都大学医学部第二生理学教室笹川久吾教授のもとで確立された治療法です。中谷義雄は大阪のデパートで活力測定器を使って増血剤を販売している店員と出会い、その測定器を入手します。それがきっかけとなって良導絡測定器(ノイロメーター)を考案するのです。ノイロメーターを使って腎炎の患者の皮膚の電気抵抗を測定したところ、東洋医学でいう腎の経絡に似た形の電気の通りやすい筋を発見しました。中谷義雄に東洋医学の経絡・経穴を知っていたことが功を奏したといえます。その後。他の経絡に似たものが発見され、電気の通りやすいルートという意味で「良導絡」と名づけました。よって良導絡には治療方法と電気の通りやすい経絡のようなものという2つの意味があります。
余談ですが物理学では電気を通す物体を導体、通さないものを不導体と言います。条件によって電気を通したり通さなかったりするのが半導体です。良く電気を通す経絡あるいは連絡路といった意味合いを感じるネーミングです。治療方法としては直流電気を体に刺入した針に流して行います。良導絡の細かい説明は長くなるので端折ります。簡単にまとめると良導絡は“自律神経(交感神経)の状態を測定し、電気針により調整する治療法”ということになります。
医師が作った方法でありながら東洋医学的な観点と鍼技術を用いているものではり師が得意な分野になります。現在では鍼術の一つになっています。今回注目するのは「良導絡測定」。ノイロメーターを用いてポイントの電気抵抗を測定することについてです。
中谷は実験でノイロメーターの電圧を21Vに設定して皮膚の通電抵抗を測定したときに、その周辺より電気の通りやすい点が多数出現したこれを「良導点」と名付けます。さらに電圧を12Vに下げて測定すると良導点の数は減少しますが、内臓の異常や痛みなど身体の異常・刺激による“交感神経の反射で出現する”ことを発見し、「反応良導点」と名付けます。良導絡は線ですが良導点は文字通り点です。良導絡上には多くの良導点が在りますが、それらの電流値を合計して良導点の数で割ると平均電流が出て、これがその良導絡の興奮性を示します。実験によって平均電流に一番近い反応良導点を「代表測定点」と名付けこの電流値をもって各良導絡の興奮性を表します。何が言いたいかというと良導絡測定をすることでその人の自律神経の状態が観測できます。更に東洋医学でいう五臓六腑の状態も把握できるのです。
良導絡の起点は古典的な東洋医学の考え、“経絡”にあります。経絡とは全身にある気の流れです。正経という左右対称にある経絡が12種類あります。手の6経と足の6経。更に陰陽で各3つずつあります。つまり手の陽経3つと陰経3つに足の陽経3つと陰経3つで合計12経です。良導絡は経絡の考えに基づいて12に分類された病態が体表に現れる「電気の良く流れる特定の部位の連絡の系統」となるのです。また自律神経の一つである交感神経の興奮性が電流量と正比例するのです。何が特徴的かというと東洋医学の経絡という理論と、現代的な自律神経測定が組み合わさっていることなのです。自律神経を測定するには心拍数やリズム、発汗状況、瞳孔の様子など幾つか方法があります。東洋医学的な測定方法として脈診や腹診という手首の脈や腹部の状態をみることがあります。この場合、五臓(肝・心・脾・肺・腎)あるいは六腑(胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)で個別にみることがあります。その両方を兼ね備えているのが良導絡測定になります。
原理は電圧を測定するテスターとほぼ同じです。患者さんにアースとなる握り導子を片手に軽く握らせます。そこにノイロメーターの測定導子を代表測定点12点、左右合計24か所に当てて値を測定します。それはアルファベットと数字で表します。手はH、足はFとし、各1~6の数字が当てはめられます。このときの測定点は経絡の原穴と言われる場所とほぼ一致します。ですから鍼灸師の方がすっきりと入ってきます。具体的には以下の通り。まず手(H)から。
・H1(肺良導絡)「太淵(肺経の原穴)」
・H2(心包良導絡)「大陵(心包経の原穴)」
・H3(心良導絡)「神門(心経の原穴)」
・H4(小腸良導絡)「陽谷(小腸経の腕骨)」
・H5(三焦良導絡)「陽池(三焦経の原穴)」
・H6(大腸良導絡)「陽渓(大腸経の合谷)」
手の測定点は手首周りにあります。それは各経絡の原穴という経穴の位置と一致しています。
続いて足(F)です。
・F1(脾良導絡)「太白(脾経の原穴)」
・F2(肝良導絡)「太衛(肝経の原穴)」
・F3(腎良導絡)「太渓(腎経の原穴)」、「水泉」、「照海」の中心辺り
・F4(膀胱良導絡)「束骨」あるいは「京骨(膀胱経の原穴)」の辺り
・F5(胆良導絡)「丘墟(胆経の原穴)」
・F6(胃良導絡)「衝陽(胃経の原穴)」
足の甲付近にあります。手と違って足首にあるわけではないのです。
H1~H6、F1~F6の順番に各電流量を測定して、良導絡専用カルテに値を記入していきます。アナログに専門用紙にプロットするやり方とパソコンのソフトと連動して自動でプロットするやり方があります。私が鍼灸マッサージ教員養成科で習った時は手書きで書きました。手書きで赤字でプロットしたものは当時授業で計測したものです。臨床で用いている人だとソフトを入れたノートパソコンと繋げて測定することが多いです。その結果から状態を読み取っていきます。中谷は病院の患者から膨大な測定データと診断結果を照らし合わせて理論体系を構築しています。細かい見方は説明しませんが、分かっている人が見ると多くのことが読み取れます。そのため良導絡測定は簡易的な人間ドックの役目を果たすとも言われます。私が出た東京呉竹医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科では最終学年の2年時に卒業研究発表が必修となっています。このときに良導絡測定を用いた実験研究が何例か行われてきました。私の同級生もしましたし、次の期もその後継研究として用いました。3年前には私も被験者の一人として教員養成科に出向き計測を受けました。パソコンの画像はその時の私の測定結果です。
良導絡測定は東洋医学と現代医学を繋ぐ架け橋になると考えています。なぜならば良導絡は経絡経穴を科学化する研究の中で発見されたもの。経験則に頼りがちで、現代医学に比べると客観性に乏しいとされる東洋医学。それを科学の目で客観性を持って測定するためにできたといえるもの。その内容は”気”ではなく自律神経の機能を基調にしています。自律神経は客観的に測定することができます。それが現代医学側からも素直に受け入れやすくなります。また経絡や経穴の概念を元にしつつもアルファベットと数字で表記することで抵抗感をなくしています。鍼灸師には手太陰肺経の太淵で通じますが非鍼灸師には難しく感じます。まさに東洋医学と西洋医学の架け橋となる存在ではないでしょうか。
東洋医学の科学化、客観化。これは永遠の課題です。鍼灸が標準治療になりえないのは術者の個人差が激しいことや流派が多すぎることが挙げられます。医師側からすると、鍼灸師一人一人言っていることがみんな違う、という感想が漏れるでしょう。その中で良導絡測定という測定指標がキーになり、やり方は千差万別ですが効果を測定する方法は統一できるようになるのでは、という気持ちが私にはあります。良導絡は臨床で用いていないので知識がある程度ですが、これからも長い鍼灸師人生なのでどこかでもう一度研究して取り組むことになるかもしれません。医師とも共通にできる手段の一つとして良導絡測定は覚えておかないといけないものだと考えています。
甲野 功
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