～箱根千条の滝～

生まれも育ちも東京都新宿区。昭和５０年代を知っていて当時の新宿区は瓦屋根の一軒家が珍しくなかったです。ギネス記録を持つ世界一の乗降者数を誇る新宿駅前もかつては淀橋浄水場という広大な施設がありました。淀橋浄水場の記憶はありませんが、現在新宿副都心として超高層ビルが立ち並ぶ前のだだっ広い空き地の光景は覚えています。地方からみた印象だと新宿区は自然など皆無のコンクリートジャングルというイメージがあると思いますが、その想像よりは自然があります。新宿御苑の森はここが本当に新宿なのかと驚くと思います。東京２３区で最も高い箱根山（※これは人口の築山。自然の山だと港区の愛宕山が最高峰になります。）の周辺はぽっかりと木々が生い茂っています。負け惜しみのようなことを書いていますが、新宿にも“ナイアガラの滝”があります。これは新宿駅前、最初の挙げた淀橋浄水場跡に作られた新宿中央公園にあります。通称でもあだ名でもなく正式に『新宿ナイアガラの滝』と言います。滝と称していますが人口の噴水なのですが。さすがに新宿区には立派な滝が見当たりません。

新宿区に住んでいると自然がない！と不満に思う人は少なくないようですが、私の場合そんなことは思わないのです。小学校の終わりまで父親にたくさんの山に連れて行かれました。小学校高学年になると夜行列車で地方に行き、外のベンチで仮眠を取り始発の路線バスを待つ。日の出とともに山に入り午前中で山頂までいく。小学校１年生でトータル１０時間山歩きをしたこともありました。そのため大自然が足りないという感覚が子どもの頃かありませんでした。都会の方が便利であることこの上ない。山の中では疲れてもタクシーやバスに乗ることはできず自力で歩いて降りてこないといけません。食料も水も貴重でちょっとコンビニでお買い物などできません。もっと自然のある所で暮らしたいとは一切思わないです。自然の、というより山の、厳しさを味わったので。

反面、懐かしくなりたまに自然に触れあいたくなります。自然は非日常。たまに接するから楽しい。そして幼少期の記憶を喚起させるのです。今は厳しい山を登ろうという気持ちはないのですが自然の川や滝、森に行きたくなります。そのようなときに候補となるのが箱根。新宿からロマンスカーに乗れば１時間半で到着する自然。上の大涌谷いけば活火山、その先の芦ノ湖。ロープウェイに乗れば駒ヶ岳。手ごろな山歩きもできます。その箱根には美しい滝がいくつかあります。新宿区には自然の立派な滝はありませんので箱根の滝を観にいくことがありました。その一つが千条の滝。千条とかいて「ちすじ」と読みます。この千条の滝を紹介します。

千条の滝 - 足柄下郡 - 箱根町観光協会

千条の滝を見るにはある程度山歩きをしないといけません。私が初めて千条の滝を見たのはまだ２０代半ばの頃。箱根湯本からハイキングコースに入り浅間山を歩いたときでした。最後千条の滝に向かうルートにしました。高校時代山岳部だったので問題ないだろうと思っていましたが結構な山道で同行した友人と舐めていたねと話したものでした。ここまで歩かなくても箱根登山鉄道小涌谷駅のそばから千条の滝方面のハイキングコースに入るとそこまで険しくな２０分ほど歩くとたどり着きます。あるいはユネッサンや岡田美術館方面までバスに乗り、小涌谷蓬莱園から山に入っていくと着きます。一番歩きたくないならタクシーや自家用車でギリギリまで車道を進むといいでしょう。千条の滝がある小涌谷エリアはかつて小地獄と言われ明治まで開発がなされていませんでした。そのため千条の滝もほとんど世に知られていませんでした。大正時代になると「三河屋旅館」の創業者である榎本恭三が美しい千条の滝の存在を広く知らせたいと願い道を整備したといいます。

千条の滝は蛇骨川上流に位置します。高さ約３ｍ、幅２０ｍという横に長い、高さは低い滝です。日本三名瀑のような大きな高低差があるような滝ではなく、形状は新宿ナイアガラの滝に近いです。幾筋にも分かれて水がすだれ状に流れ落ち、その様子から千条（ちすじ）の滝といいます。土石流によりできた円礫岩（えんれきがん）という大小様々な苔の生した石があります。箱根という超メジャー観光地でありながら山の中の神秘的な光景が広がります。もともと江戸を抜けるための要所で“天下の険”と言われた険しい山が箱根。その山の中に自然が生んだ美しい滝があるのです。

箱根には美しい千条の滝があります。

甲野　功

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