開院時間

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~鍼灸学生&プレ学生BBQ交流会の質問回答~

鍼灸学生&プレ学生BBQ交流会のチラシ
鍼灸学生&プレ学生BBQ交流会のチラシ

 

 

先日開催された「鍼灸学生&プレ学生BBQ交流会」。主催者から声を掛けていただき参加しました。イベント発案者の方が学生さんに役立つ話をしてくれるだろうという期待があった上でのことだと思っています。そしてイベント主催側が参加者から質問を事前に募ったそうです。その結果、想像以上の質問が届いたそうで、重複する内容をまとめて項目にしてもらったものが事前に届いていました。当日、聞かれたら答えようと思っていましたが立食パーティーのようなフリースタイルになったので特段話すことはありませんでした。ただこのような疑問がこれから鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師になる学生さん・プレ学生さんがあったということなので、この場で答えておこうと思います。

 

 

質問①それぞれの先生が鍼灸師として何を軸にしているのか、現在どのような方針で臨床にあたっているか

 

私個人のことで答えます。私はあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師の資格があります。鍼灸マッサージ専門学校に入る前に民間療法の技術を先に修得していました。また鍼灸マッサージ教員養成科を出ていて、そこで様々な技術・知識を勉強しています。よってできることが多いです。鍼灸だけではない。そうなるとこちらの選択肢が多くて迷う部分があります。開業する前からぶれずに軸としていることは『(鍼灸を含めた諸々の)技術は目的ではない、手段だ』ということ。鍼灸施術をしているのが好きだから(目的)やっているのではなく、患者さんが良くなるための手段に鍼灸などがあるという気持ち。主語を鍼灸師(自分)ではなく患者さんにする。患者さんにとって必要か、求められているか、であって自分がやりたいか好きかというようにしない。そのように考えています。つまり技術(例えば鍼灸)や症例(例えば腰痛、肩こり)に特化するのではなく、人(患者さん像)に特化するという方針です。私はまず競技ダンス選手(社交ダンスを競技として行う人)のサポートをしたくてこの業界を目指しました。特に学連選手(学生競技ダンス連盟という大学で競技ダンスをする人)に対して。競技ダンス選手のために必要なことを修得しようとした結果、あはき、柔整、教員養成科と進学していきました。どれも連続では進学せず、卒業後1年間働いてやはり必要だと実感した上で次の科に進学しています。鍼が嫌い、苦手という方もいるのでその場合は徒手療法で何とかします。徒手療法ではできないことが鍼灸ではできると思っています。技術は自分のためでなく相手(患者さん)のためという気持ちを忘れずにしようとしています。

 

 

質問②得意な施術と好きな施術、得意な症状

 

上で答えたような心構えで行っていますが、個人的に好きな施術(というより技術)は按摩、マッサージ、指圧、つまりあましの徒手療法です。出発がそこからなので。鍼灸学生時代は鍼が大嫌いで刺すのも刺されるのも極力避けてきました。それで苦労して後々(鍼灸師になって5年後に)教員養成科に入り技術を磨くことにしたのです。あん摩マッサージ指圧師なら按摩、マッサージ、指圧の違いが分かるとおもいますが、この3つの中で特にと言われたら現在はマッサージです。臨床でやる機会は少ないのですが、皮膚の上から直接触れるためダイレクトに分かります。それは術者側も患者さん側も。受け手は上手い下手が凄く分かってしまうし、術者は施術による体の変化が分かる。好きという点で言えばマッサージ、得意というなら按摩と指圧になります。特異な症状というのは特になく(考えておらず)、どちらかというと属性。社交ダンスをしている方ならダンスのパフォーマンスアップ、独特な困りごと、美容など全般に対応する自信があります。専門用語を普通に話してくれて構わないし、業界特有の事情も理解している。20年競技ダンス選手の研究をしてきているので。

 

 

質問③施術をする上で大切にしていること

 

質問①の回答がそのままです。反対にこれまでの経験で臨床上これはやってはいけないということがあります。

第1位:自己顕示欲に囚われる

第2位:決めつける

第3位:ルールを破ったときに居直る

一番気を付けているのは自己顕示欲に支配されてしまうこと。学生時代や勤務時代に他人よりよく見られたい、優秀だと思われたいと願って暴走したことが多々ありました。俺はお前より上なんだよ、とか、もっと評価してくれ、など。患者さんにとっては何の関係もない話でいい迷惑。それにより患者さんではなく周囲に意識が向いてしまってよくありませんでした。今でも一人で院をしているのも自分一人だから患者さんだけに集中できる環境にしているという一面があります。ある時期、お山の大将になって、他のスタッフはみんな使えなくて何でそんなこともできないんだよとイライラしている頃がありました。そしてそれは自分にとって本当に良くないことだと気付きました。

決めつけるというのは、相手はこうに違いないとレッテルを貼ること。人それぞれ、という当たり前のことを臨床で踏まえる。若い男性は女性が好きとも限らない。50代男性が結婚しているとは限らない。40歳女性の子どもが1歳のことだってある。常識的に、一般的に、普通は、などの枕詞で話を聞くと問題になることがあります。またこの症状だから原因はこうに違いないと決めつけてしまうことで間違った施術方針に向かうことがあります。自分の予測を捨ててまっさらな気持ちで対面すること、自分の価値観が相手も持っていると考えないようにすることが必要だと考えています。

ルール。法律やガイドラン、倫理観など。厳密にみると完璧に守れているとは言えません。きちんとその状況を把握した上で違反を指摘、追及されたときに、「ルールがおかしいんだ」、「患者さんのためにやっているのだ」、「社会が間違っているのだ」などと居直ることは良くないと考えています。冷静にルールの解釈や状況を鑑みて対応する。自身を絶対的な正義だとしまうことは非常に危険だと考えています。

 

 

質問④今から鍛えておいた方がいい筋肉は何ですか

 

これは人それぞれだと思いますが、結局足腰が最終的にものを言うと思うので下肢の筋肉だと思います。手先の器用さは必須であるこの仕事。ただ筋肉を鍛えたから手先が動くというのはちょっと違う気がします(筋力アップという意味で。筋肉に神経を促通させる訓練は必要です。)。年老いたときに動けないといけないので足腰を鍛えておくことがいいと思います。特にあん摩マッサージ指圧師は鍼灸師よりも足腰の使い方が重要ですので、あましも取って使うならなおさらだと思います。

 

 

質問⑤教員養成課程に進学を視野に入れているが東京神奈川でオススメの学校はありますか

 

晴眼者向けの教員養成科は関東に3校です。専門学校では東京呉竹医療専門学校(東京四谷)、東京医療福祉専門学校(東京八丁堀)の2校。視覚障害者向けの視覚支援学校の教員になるための筑波大学理療科(東京大塚)。神奈川県はありません。ですから東京の3校が選択肢になります。それぞれ特徴があります。私は東京呉竹医療専門学校(旧東京呉竹医療専門学校)教員養成科を卒業し、今も毎年1回特別授業を担当し、卒業論文発表会を聴きにいっています。ですから勧めるとなるとやはり東京呉竹医療専門学校になります。一番学校を理解できているので。特徴としては「10年の修行を2年で行う」を謳い文句に“食える鍼灸師をつくる”学校。臨床に力を入れてきました。現在は研究に力を入れて、専門学校教員就職にも力を入れており臨床・教育・研究の3分野どれも力を入れてきているという印象です(10年前の教員養成科時代に比べて)。東京医療福祉専門学校さん、筑波大学理療科さんの教員養成科に進んだ先生のお話を聞いて何となく比較はできますが、部外者なのでここでは触れません。より詳しく知りたければ個別に私に相談してください。そして各校学校見学をして自分の足で確認してみることをススメます。

 

 

質問⑥現代の鍼灸界において師弟関係とはどのような関係ですか、師弟関係をお持ちの先生はいらっしゃいますか

 

現代の師弟関係は分かりません。私の場合、鍼灸学生時代に鍼が大嫌いだったこともあり真面目に練習していませんでした。卒業後、患者さんが師匠で臨床で多くを学びました。私が鍼灸学生だった20年前は同級生に師匠についている人がいましたが、数は少なかったです。現在はどうなっているのか私には分かりません。私個人は師匠もいないし弟子もいません。

 

 

質問⑦学生時代辛い時はどのように乗り越えてきたか

 

鍼灸マッサージ科、柔整科、教員養成科と学生時代がありそれぞれ状況が違います。鍼灸マッサージ科時代のことで言います。最初は勉強がうまくいかず辛かったです。東京理科大学というそれなりの大学を卒業している自負があったのですが、単純な暗記ができない、東洋医学概論の意味が分からない、試験で点数が取れないということが辛かったです。また入った呉竹は自分よりももっと賢い大学卒もいましたし、クラスの3分の1が柔整持ちで勉強ができる。最初は自分って勉強できない方なのかと気落ちしました。1年生のうちに自分にあった勉強方法を模索して確立し、それで勉強面は克服しました。大学時代から変わらないやり方に戻したことで克服できました。鍼が嫌いというのも辛いといえば辛いことでした。実技練習をしたくない。定期試験に受かればいいやという気持ちでやっていて、好きなお灸で再試になってしまったときは落ち込みました。実技練習は練習を重ねるしかないのでやるしかなかったです。なお国試が終わって就職活動をしたときに(この頃はこのような就活で大丈夫でした)片手挿管できないの?、艾捻るの下手だね、と見学先で言われ、国試後に片手挿管を練習して修得しました。

 

 

質問⑧学生時代を振り返り満足していること、反対に今ならこうしたいと思っていること

 

鍼灸マッサージ科に入学したのがちょうど20年前の2004年。これくらい前だと記憶が美化されている部分があり、概ね満足しているという感じです。東洋医学や鍼灸にきちんと向き合わなかった。だから後に教員養成科進学を決意することになり、コンプレックスがあったから免許取得後によく勉強したと言えます。結果オーライとなっています。今のようにSNSがなく情報がありませんでした。今のように学生でも行動すれば様々な先生方と繋がれる時代ではありません。もしも鍼灸学生時代にこの環境があったら違ったかもしれません。20代半ばの自分に果たしてできたのかは不明ですが。競技ダンスに関わる鍼灸マッサージ師を探して会いに行っていたとは思います。

 

 

質問⑨一番成長したと思える時期がいつ・どんな時だったか

 

多々あるのですが、強いて言えば柔整科に通った3年間です。あはき師となり東京都北区の鍼灸整骨院に就職。フルタイム(月~土、祝日も勤務)で働き、院長の柔整も取れるなら取ってほしい、という指示で当時代々木になった東京医療専門学校柔整科進学することに。1年間臨床に出て苦手だった鍼も実践で学び、術者としてもある程度自信が持てるようになっていた頃。午前中に柔整科、午後3時から現場。平日はこのようなスケジュール。一度鍼灸科で勉強しているので授業内容は大変ではありませんでした。むしろ午前中に復習を兼ねた勉強をして午後は臨に出る。インプット・アウトプットのバランスがよく勉強も臨床もすごく伸びた実感があります。柔整は東洋医学をしないので現代医療の知識をより深く学びます。鍼灸科時代では理解できないところまで勉強しました。解剖・生理・病理などをしっかり行うことで現代的な鍼灸の技術が向上しました。それに対比する形で東洋医学の理解も深まりました。この頃職場では管理職になっていたので後輩スタッフの指導(座学、臨床共に)も業務となり、教えることが最も効果的な学びであることを実感しました。院の経営にも携わり、開業するための下地をここで全て作ったと言えます。その分、鍼灸マッサージ科とは全然異なる辛さがありましたが。

 

 

質問⑩学生時代と今の考え方で変わったこと、変わっていないこと

 

鍼灸マッサージ科時代で比較しますね。やはり鍼灸、東洋医学に対することです。理学部応用物理科を卒業し、鍼灸は科学ではない、と考えていました。それが勉強することで(特に教員養成科で学んでから)考えが大きく変わりました。物理学ではなく生物学(生理学)。東洋医学を数学的に捉える。そのような感じで学ぶことで考え方が変わりました。変わらないことは質問①で回答したような軸になること。それは20年経っても変わっていません。

 

 

質問⑪学生に一つ、一言だけアドバイスするとしたら?

 

皆さんがこれから取る資格(はり師、きゅう師免許)はきっと思っているほど凄いものではありません。しかし3年間の学生生活はきっと思っている以上に貴重なものです。

 

補足。免許を取れば鍼灸師など山のようにいます。弁護士や医師のような社会的信用があるようなものでは残念ながらありません。「鍼を刺すのに資格がいるんですか?そんなこと誰も知りませんよ!」と飲食勤務の一般の方に言われたことがあります。怪しい、痛そう、熱そう、という印象を持たれることは少なくないです。一方、専門学校3年間が全てのベースです。ここで勉強したこと、練習したことがなければ何もできません。学校に不満がある方もいるかもしれませんが、卒業してしばらく経ったときにあの時代があるから今があると思うときがくるはずです。制度上、専門学校が認定しないと国家試験を受けることができないので現実的にそうですし。学生生活を大切に感じてほしいです(それがネガティブな心境だとしても)。

 

 

質問⑫学生が間違えがちなこととその対策

 

個人的に学生さんに必ず話すのは学校は戦術を教えてくれるが戦略は教えてくれないよということ。鍼灸師になるための勉強、技術、手段は教えてくれるが、鍼灸師となって何をするのかは教えてくれないのです。どこに旅行に行くかが戦略。どのような交通手段にするかが戦術。大雑把にこんな違いです。北海道に行くのに飛行機を使うのか、高速バスでいくのか、在来線を使うのか、船を使うのか、徒歩でいくのか。その手段は戦術です。徒歩は現実的ではないですが戦術が間違っていても(理論上は)いつかは北海道に着きます。ところが沖縄を目指していたら。戦術(交通機関の選択)が正しくても目的地の北海道には着きませんしむしろ遠ざかります。学校もそして先輩方も鍼灸が上達する方法や手段(戦術)は教えてくれるでしょうが、あなたがどのような鍼灸師になりたいか(戦略)は教えてくれません。よく「学校は使える技術を教えてくれない」と不満を漏らす学生、先輩鍼灸師がいらっしゃいますが、「あなたにとって使える技術(鍼灸)とは何ですか?」という問いに答えを持ってほしいです。スポーツトレーナーを志望している学生が高齢者介護に役立つ鍼灸は必要ですか。最低限の基本を教えるのが学校の務め。どこに向かうのかを定めたら、今はSNSで幾らでもその道の素晴らしい先生とコンタクトを取ることができます(受け入れられるかは別として)。調査、相談、行動をしてみてください。動いてみてやっぱりこの分野(方向性)は違うなと分かれば方向転換すればいいです。

 

 

質問⑬今後目指していること・やりたいこと

 

開業して10周年を迎えてやや落ち着いてしまっています。長期的な目標は孫に十分なお年玉を渡すこと。これは子どもを育てて、子どもが結婚して、子どもが生まれて成長して、という前提で、自身が更に経済的に豊かであること。まだ実感がわかない部分があります。もう少し具体的には、すでに取り組んでいることですが、全国のあん摩マッサージ指圧師養成学校の手技の特徴を研究したいです。鍼灸に比べると情報も研究も少ないと思います。晴眼者の学校は20校ほど。その中であましの技術はかなり違いがあることが教員養成科に行って分かってきました。同じ指圧カテゴリーでも浪越指圧と長生術は全然違います。吉田流按摩と後藤流按腹術は呉竹にないものです。各学校が継承してきた手技(あまし)にどのような違いと特徴があるのか。それを体験して比較検討したいです。

 

 

質問⑭今後の鍼灸あまし業界の見通し

 

とても難しいです。大きな視点で見れば仮に戦争や大震災が起きたとしたら今とは社会的立場は大きく変わることでしょう。医療資源が枯渇した場合に、比較的軽い症状や慢性的なものに対して東洋医学の知識は非常に活用されることでしょう。徒手で行えるあましの技術は今と比べ物にならないくらい重宝されるのではないでしょうか。敢えて柔整も入れますが、外傷の応急処置ができるという点で柔整の知識技術は非常に大きいと思います。国家資格の重要なことは最低限の医学知識(医師から見れば鼻で笑われるかもしれませんが)があること。一般の人よりも知識があり重篤かどうかの判断がある程度できます。開業権があるため(医師の指示がない)独自で判断する能力(経験)があります。かつ鍼灸あまし(特にあまし)は積極的に介入する手段を持っていること。薬剤、機材がなくてもやれることがあると考えていますし、手を出してはいけないという判断も。

このような極端なことを除くと、今後コンプライアンスが厳しくなると考えています。今後正式に導入されるあはき・柔整広告ガイドラインはかなり踏み込んだ内容です。景品表示法違反も厳しくなっています。今までも注意しておかないといけないという見通しを持っています。

 

 

口頭だとここまできちんと回答できなかったと思います。質問内容に向き合って回答してみました。数年後には考えが変わっていると思いますが現時点でのものです。

 

甲野 功

 

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