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~可能性を感じたあん摩マッサージ指圧師3流派での出店~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 3流派のあん摩マッサージ指圧師
浪越、長生、呉竹出身のあん摩マッサージ指圧師3名が集まりました

 

 

今週月曜日に「第3回 All JAPAN S&T Championships Supported by つきじ喜代村すしざんまい」という社交ダンスのイベントがあり、そこで二人のあん摩マッサージ指圧師の先生と共にマッサージブースを出店しました。社交ダンスのフロアーがあり、その横のスペースが出店エリア。社交ダンス関連のドレス、アクセサリー、シューズなどのお店の他にマカロン、チョコレート、芋けんぴなど直接関係のない店舗も出店していました。偶然にも私を含めた3名が大学で社交ダンスを競技として行う競技ダンス経験者。大学競技ダンスのOBOG練習会の縁で出店することになったのでした。

私は鍼灸師、柔道整復師科でもあるので鍼、灸、柔道整復も入れようかと提案されたのですが会場で鍼灸器材を扱うリスクとコンセプトがまとまらないという考えでそれを止めてもらいました。全員が学生競技ダンス経験者のあん摩マッサージ指圧師であるというところに絞ってマッサージのみの出店ということにしました。発案者の鈴木恭平先生、鍼灸マッサージ教員養成科の先輩にあたる神田浩士先生と共に「あい・あじさい・なりひら出張マッサージ治療院」として出店したのでした。

準備段階で卒業したあん摩マッサージ指圧専門学校が全員異なることに自然と注目しました

 

神田浩士先生は浪越学園日本指圧専門学校。あん摩マッサージ指圧師免許取得後に東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科に進学しあん摩マッサージ指圧師専門学校教員免許を取得しています。

鈴木恭平先生は総本山長生寺所属長生学園卒。

私は呉竹学園東京医療専門学校(現東京呉竹医療専門学校)卒。後に同校鍼灸マッサージ教員養成科を卒業し専門学校教員免許を取得しています。

 

情報を補足すると、日本指圧専門学校は故浪越徳次郎氏が創設したあん摩マッサージ指圧師を養成する学校。浪越徳次郎の名前は有名でハリウッド女優のマリリン・モンローにも指圧をしたといいます。浪越指圧という技術があり、指圧と言えば浪越指圧というイメージが世間にあるかもしれません。長生学園は宗教法人総本山長生寺に所属する珍しい学校で日本指圧専門学校と同様にあん摩マッサージ指圧専門学校です。浄土真宗(のちに新派の真宗長生派)の長生上人から始まり、長生術を教えます。東京呉竹医療専門学校は大正時代に故坂本貢氏が創設した東京温灸醫學院がルーツです。

 

このように神田浩士先生は浪越学園の浪越指圧、鈴木恭平先生は長生学園の長生術、私は呉竹学園の手技を主にします。日本指圧専門学校、長生学園は日本で2つしかないあん摩マッサージ指圧師のみの専門学校。他は東京呉竹医療専門学校のように鍼灸師も取得できる学校で、あん摩マッサージ指圧師単独の学校はありません(※視覚支援学校を除く)。そのため浪越指圧、長生術というのはあん摩マッサージ指圧師業界でも有名で異彩を放っているといえます。呉竹学園には呉竹指圧というものがあります。浪越指圧にかなり似ているのですが圧を抜くときに半月の手と呼ばれる指の操作方法があります。また按摩の揉捏にはMP揉みと称される独特な動きをします。三者三様なのです。

 

浪越、長生、呉竹。この3校を卒業したいわば3流派が一堂に会して行う。画期的な出来事なのです。そのことに注目して3名全員から15分ずつマッサージを受ける三者揉み比べができますよと、事前に紹介しました。当日は2名、社交ダンスの先生が体験しました。受けた方もそうですが、行う当人たちも他流派の先生とベッドを並べて行うことが稀なので興味深かったのです。同じあん摩マッサージ指圧師という資格であり、やっていることは指圧あるいは按摩という分類になるのですが、異なることが多いのです。

 

そもそもあん摩マッサージ指圧師という長い資格名称。その名のとおり按摩(あん摩)、マッサージ、指圧という3種類の技術をまとめています。按摩は西暦701年にできた大宝律令にも記されるほど古くから日本にあるもので、中国を発祥として日本に伝来したものです。現在の教科書(あん摩マッサージ指圧理論)によれば揉捏(平たくいうと揉む技術)が中心の技術です。古法按摩として吉田流按摩というものがあり、八丁堀にある東京医療福祉専門学校がその技術を今も継承しています。マッサージ(massage)は明治時代にヨーロッパから軍医が取り入れたものとされており、皮膚を直接触り求心性(末端から中枢部に向ける)の手技をいいます。軽擦(平たくいうと撫でる技術)が中心の技術になります。一般の人が認識しているマッサージはあん摩マッサージ指圧師でいうところの按摩や指圧であり、massageはオイルマッサージがそれに該当するといえるでしょう。指圧は大正時代に按摩、massage以外の徒手療法をまとめて「指圧」として免許に組み組むことにしました。教科書として押圧(平たくいうと押す技術)が中心の技術ですが、幅が広いです。アメリカの3大整体も組み込んでいるとしています。浪越指圧、長生術は按摩・massage・指圧の3つでいうと指圧に分類されます。しかし技術体系はかなり違います。浪越指圧は母指での押圧が中心で垂直圧という技術を重視しています。長生術は脊柱の並びに注目しています。

 

このような事情があるため術者でも、いや術者であるからこそ、他校(他流派)の技術は未知数ですし興味深いのです。3校の卒業生が集まってベッドを3台並べて施術する。仕切りなし。症状の見立て、手技の構成など術者ゆえに気付く、理解できることが多々ありました。たまたま偶然行われたこの企画、とても将来性を感じさせると私は強く考えております。

 

その理由はおそらく鍼灸師では、このようなことができないだろうということ。

鍼灸の流派というかやり方は本当に千差万別です。大きく現代派、経絡派、中医学派の3流派が大きくあるとされています。それぞれにも細かくあります。まず体に刺す毫鍼を用いない術者もいます。鍉鍼というものを用いる人、毫鍼を使用するが皮膚に触れるだけで刺さない接触鍼にする人。毫鍼でも100本刺す人もいれば1本しか刺さないやり方も。装置を刺入した毫鍼に繋げる低周波パルス通電、鍼に艾の塊を付けて点火する灸頭鍼、毫鍼自体を温める温鍼、火鍼。技術の個別名称を挙げると良導絡、YNSA、積聚治療、経絡治療、長野式、太極療法、三焦鍼法、醒脳開竅法、などなど。これに灸術もいれると深谷灸法、紫雲膏灸、ネパール棒灸といった固有名称の技法が挙げられます。挙げ出せば本当にキリがなく全容は見えません。大袈裟ではなく。特に中医学と経絡治療の違いは学生さんにとって混乱するところ。私自身も教員養成科で学んで分かってきました。鍼灸師は一人一流派と言われるようなものですから、他の鍼灸師とベッドを並べても自分は自分のやり方を貫くと思われます。勉強会とかで一方的に教えるという場合は別ですが、対等な関係でイベントでやりましょうというのは無理があります。東京都鍼灸師会らがマラソン後のランナーにボランティア活動として鍼をすることがありますが、それは円皮鍼というシールに付いた非常に短い鍼を貼るだけ。このようにやり方を統一しないといけないのでしょう。またきちんと鍼灸をしようとなると肌を出すことが考えられるので仕切り、目隠しが必要になります。周りから見える状況で鍼灸を行うこと自体現実的ではないのです。そうなると他の術者がやり方を観察できる状況が生まれないという意味でも、このようなやり方が、できないと思われるわけです。

勉強会において、ベッドを複数並べて同時に施術を見せるという方法はできると思いますが、それだとまた話が変わってきます。不特定多数、それも一般の方を対象とする実戦の場では。あん摩マッサージ指圧師でもオイルマッサージをするので肌を出すという条件なら同じように実現が難しいでしょう。手足のみとか部位を限定するなら可能ではあると思いますが。

 

一方、あん摩マッサージ指圧師の場合、技術交流が非常に少ないです。同じ流派での交流はあるのでしょうが、他校の技術を学ぶ、知るという機会は鍼灸に比べると非常に少ないといえます。その理由の一つにそもそもあん摩マッサージ指圧師は絶対数が鍼灸師に比べて少ないです。あん摩マッサージ指圧専門学校は全国に21校ほど。対して鍼灸養成学校は専門学校に大学を含めると100校弱(※今年はり師国家試験受験学校数が98校。視覚支援学校を除く。ただし既に募集停止、閉校したものも含むので実際には90校ほど)。今年開催された国家試験で視覚障害者を除く新規のあん摩マッサージ指圧師は804名であるのに対し、はり師は2804名です。

また学校の状況も個々に異なります。私が出た東京呉竹医療専門学校は鍼灸から始まった学校であん摩マッサージ指圧より鍼灸を重視する校風。反対に按摩やマッサージから学校が設立したところはあん摩マッサージ指圧師を重要視します。浪越、長生は当然あん摩マッサージ指圧師だけですからもちろんそうです。鍼灸師になるためのついでに取得したという術者もいるのです。そうなると鍼灸の研究をするけれどあん摩マッサージ指圧は力をあまり入れないという人が出てきます。

 

さらに他流派と対立しないかわりに他を学ぼう、知ろうとしません。独自路線といいますか。うちはうち、という考えが強いですし、それで十分成り立つといいますか。結局のところ、あん摩マッサージ指圧は鍼灸に比べると各学校の技術において比較検討がされていないのです。既に述べたとおり、学校の成立においても、按摩から、マッサージから、指圧から、のいずれかでこだわりが変わるのです。ここ数年、その違いがあることを多方面に話を聞き、調査をしてみて判明してきたのです。各々常識が異なると。更に視覚障害者の手技はまた特徴がある(というより事情が異なるためかも)と考えるようになりました。あん摩マッサージ指圧における各校の技術比較は今後の課題であります。

 

このように実は他校の技術を学ぶことが鍼灸に比べると少ないあん摩マッサージ指圧師。今回のイベントは非常に貴重で学ぶ場であると感じました。出店という形ではなく、勉強会という状況にしても構いません。ベッドを複数台並べて各学校の(各流派の)代表者が集まり、施術をしながら意見交換、技術比較をする場を作れば大きな成果が得られるのではないかと考えます。今回、浪越、長生、呉竹の3つが集まったことで実感しました。具体的には赤門、呉竹、経絡按摩、吉田流、後藤流、花田、長生、浪越、国際鍼灸、湘南医療、東海医療、名古屋鍼灸、中和医療、京都仏眼、大阪行岡、関西医療、四国医療、鹿児島鍼灸の技術や歴史、特徴を調べて比較検討する。加えて視覚障害者の手技は違うのか、各視覚支援学校で手技の違いはあるのか、といったところまで。何年もかかることでしょうが、今回のマッサージブース出店は具体的なイメージが浮かぶ材料になりました。非常に可能性を感じました。

 

甲野 功

 

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