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日曜日に東京有明医療大学で行われた『令和6年度(公社)全日本鍼灸学会関東支部・(公社)日本鍼灸師会関東甲信越ブロック合同学術集会』に参加しました。これはいわゆる学会というもの。お台場の有明医療大学に出向いて開会式から閉会式まで聴きました。
私はこれまで外部の鍼灸学会にほとんど出たことがありません。今年の2月に東京呉竹医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科卒業論文発表会、9月末には呉竹学園呉竹医学会学術大会に参加していますがどちらも母校が開催したもの。もっというと学生時代に発表したものです。これまで鍼灸師会にも鍼灸学会にも所属したことがなく、外部の学会に一般として(非会員として)参加したのは一度だけです。言い訳がましいことを言えば、教員養成科で様々なジャンルの講師から学びそこの卒業論文発表会で新たな知識やトレンドを毎年取り込んできました。また呉竹医学会や卒業後研修会(母校、外部ともに)で学びたい項目を選択して受講してきました。無理に学会に参加する意義があまり感じられませんでした。
ではなぜ今回参加したかというと知り合いの鍼灸マッサージ専門学校学生の茂木龍生さんがランチョンセミナーで登壇するからです。これは会場で見ておきたいと思い参加を決意しました。
当日は朝から東京有明医療大学へ。鍼灸科のある大学は現時点で全国に12校あります。うち1校は視覚障害者が対象の大学です。東京有明医療大学は2009年開学で私が東京医療専門学校鍼灸マッサージ科に入学した2004年時点ではまだありませんでした。初めて足を踏み入れます。
今回の学会は初の試みだそうで異例なケースだとか。私自身初めての参加なので実感がわかないのですが特殊な開催だったのです。それは『全日本鍼灸学会関東支部』と『日本鍼灸師会関東甲信越ブロック』の共催であるということ。まず公益社団法人全日本鍼灸学会という学術団体があります。これは鍼灸に関する様々な研究・論文発表事業などを実施している団体です。その関東支部。対して公益社団法人日本鍼灸師会は公衆の厚生福祉に寄与し鍼灸師の資質向上と福祉を図る職能団体。その関東甲信越ブロック。全日本鍼灸学会は学術団体であるので学問・研究が目的です。一方日本鍼灸師会は主に鍼灸師のための職能団体。方向性が異なるのです。その2つの団体が関東という地区ブロックレベルですが合同で学術集会を開催したということなのです。学会と師会、何が違うの?と外部からみると思われるでしょうが、目的が異なるのです。それ故に異例であるわけです。初めての参加ですがそこら辺のことは業界にいて肌感覚で理解できます。
今回のテーマが「鍼灸師よ、プロフェッショナルを目指せ ―Professionにおける生涯教育―」というもの。プロフェッショナルというのは多分に患者さんに向き合う臨床家の意味合いがあり、生涯教育という言葉はずっと学問として勉強していこうという意図を感じます。鍼灸業界は大きく分けて3本柱で成り立っています。それは臨床・研究・教育。患者さんに施術して体調を良くするのが臨床。多くの鍼灸師が臨床に携わります。続いて鍼灸の効果を学問として研究し論文や学会で発表する。そして専門学校や大学などの鍼灸師を養成する施設などで後進の育成をする教育です。私の場合は開業しているのでそのほとんどが臨床分野であり、たまに教育をするという感じです。研究は学生時代に行ったのと、個人的に法律や事件・事故の事例を研究しているというくらいで論文作成や学会発表といったことは卒業後していません。つまり私は臨床畑の人間です。学会というのは研究分野のものとなります。
学校で分けると、臨床鍼灸師育成を主としているのが厚生労働省管轄の専門学校で、研究者育成や学術・研究を担うのが文部科学省管轄の大学であるといえます。そのような違いがあります。専門学校は大雑把にいえば職業訓練校であり、大学は研究機関。もちろん専門学校でも研究はしますし(現に私はしました)、大学を卒業して臨床で活躍する鍼灸師は多数います。大まかな方向性が異なるということです。
研究が主の鍼灸学会と臨床が主の鍼灸師会が合同で開催することが異例なのです。また一般演題で学生が発表することや支部学会でランチョンセミナーの開催、そこに学生が登壇するというのも初だそうです。
会場では顔見知りの東京都鍼灸師会のメンバーが場内の器材を操っていました。東京都鍼灸師会は日本鍼灸師会の組織。配信や場内音響、映像を扱っていました。実行委員長は全日本鍼灸学会関東支部の先生で副実行委員長は全日本鍼灸学会関東支部と日本鍼灸師会関東甲信越ブロックの先生の2名でした。バランスを感じます。なお会場には東京呉竹医療専門学校校長の姿もありました。教育分野の先生も関わっております。
開会式があり一般演題が始まります。一般演題のトップバッターは東京呉竹医療専門学校鍼灸科附属施術所の大金豪先生。大金先生は鍼灸学生時代から当院に勉強に来ていた先生で先の呉竹医学会学術大会でも発表をしていました。続いての発表が東京有明医療大学附属鍼灸センターの先生。指導教員の名前には私が鍼灸学生時代に習った坂井友実先生の名前が。次の3演題は帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科の学生たち。帝京平成大学は池袋にある大学で東京にある2つある鍼灸大学の一方です。私は鍼灸大学との関りがほとんど無かったので新鮮でした。大学は研究機関であるので母校の鍼灸マッサージ教員養成科よりも研究器材が充実しているなという印象です。また座長や質疑応答の方も大学関係者で呉竹医学会学術大会と様子が違うと感じました。
続いて教育講演です。テーマを「医療者に求められるプロフェッショナリズム」として講師に島根大学医学部付属病院副院長・教授、臨床研究センターセンター長の大野智先生、司会に埼玉医科大学の山口智先生が登壇しました。大野智先生というと今年出版した『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』(講談社ブルーバックス)の著者です。オックスフォード大学による定義からプロフェッショナリズムについて解説します。この内容は2019年に唯一参加した学会、日本伝統鍼灸学会で津田昌樹先生が話したものと同じでした。医学部教授の大野先生が医師の卵に対して教えている内容を鍼灸師に置き換えて講演しました。そこでSDMやCOI、アンプロ委員会といった初めて耳にするキーワードが登場しました。こういったものは場を改めて深堀りしていきたいと思います。
お昼はランチョンセミナー。これは鍼灸製品メーカーのセイリン株式会社が協賛してお弁当を配布し、昼食を取りながらディスカッションします。テーマは「若手が求める夢のある鍼灸業界の未来」でパネラーに帝京平成大学、東京有明医療大学、日本鍼灸理療専門学校、大宮呉竹医療専門学校の学生4名が登壇しました。司会を筑波技術大学の福島正也先生と日本鍼灸理療専門学校の竹津健亮先生が行いました。このランチョンセミナーが一番の参加理由で前の方の席に移動して集中して聴きました。大学と専門学校の学生が2名ずつ。鍼灸学生800名弱から得られたアンケート結果を紹介しつつ議論していきます。私は鍼灸マッサージ学生支援をしているので非常に興味深く聴きました。このランチョンセミナーについてもまた改めて触れたいと思います。
午後はシンポジウムでテーマが「多様なキャリア形成から考えるプロフェッショナリズムと生涯教育」。4名の各現場で活躍するシンポジストが各々話をし、その後合同でディスカッションを行いました。卒業後のキャリアをどう積むのか。これは臨床分野の色が強いものでした。特に印象に残ったのが読売巨人軍医療コンディショニング室の宮下拓明先生のお話。宮下先生は偶然にも私と同じ東京医療専門学校で柔道整復師、鍼灸師の資格を取ります。柔道整復科に通っていたのは時期がほぼ一緒です。夢に向かって強い意志で突き進み、整形外科クリニック、(野球の)独立リーグ、そして読売巨人軍のトレーナーになるのです。他の3名と異なり卒業後研修や教員養成科進学を経験せず、自力で学ぶ場所を見つけてキャリアアップしていきました。目標を掲げてから周りに目標を公言し続けると述べていました。まだ30歳という年齢です。私の世代ではプロ野球のジャイアンツといったらとてもなく大きな存在です。今だとメジャーリーグのドジャースがそれにあたるのではないでしょうか。同じ専門学校を卒業した柔道整復師・鍼灸師でこれだけのことをやり遂げている人物がいることに感動すら覚えました。
最後のセクションは市民公開講座。一般の聴講者を会場に入れて行いました。鍼灸関係者以外が会場に入るとは。また内容はYouTubeに公開するとは。まずNHKメディア総局第2製作センター山本高穂氏が「鍼灸って気のせい?プラセボ?本当に効くの?」というテーマで講演。山本氏はNHKの番組を手掛け、我々の業界では『東洋医学のホントのチカラ』、『東洋医学を“科学”する』が有名です。一般的には『ダーウィンが来た!』、『クローズアップ現代』がよく知られている番組でしょう。先に挙げた書籍『東洋医学はなぜ効くのか』も大野先生と共著されています。一般の方向けに我々がはりきゅう理論で習う鍼による鎮痛効果の機序を説明しました。続いて東京有明医療大学鍼灸学科教授・学科長、同大学大学院保健医療学研究科教授の高倉伸有先生が「鍼の本当の力を室ために必要なこと」というテーマで話しました。プラセボが重要なテーマでその説明に時間を割きました。お二人の講演のあとは司会である東京有明医療大学の矢嶌裕義先生、高山美歩先生の進行のもと対談となりました。このセクションの話を通して、逆説的に灸術を高めることが重要になると感じました。まさかの今年の私のテーマになるという。
最後に閉会の挨拶。5年ぶりの対面開催だったそう。新型コロナによりできなかったのでしょう。久しぶりの対面開催で配信技術が向上し、かつ師会と合同で行う、学生が登壇する、といった新たな取組みがなされたようです。私にとっては初めて参加した全日本鍼灸師会の学会。普段からよく会う面々から名前はよく存じ上げている先生まで会場で見かけることができました。学術、研究分野は積極的ではなかったのですが刺激を受けて興味が少し出てきました。まだまだ先の長い鍼灸師人生。今後の活動に影響しそうです。
甲野 功
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