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~チェーン店と個人店の違いから鍼灸業界のことを学ぶ~

サイゼリヤ元社長が教える年間客数2億人の経営術 堀埜一成著 ディスカバー・トゥエンティワン
サイゼリヤ元社長が教える年間客数2億人の経営術 堀埜一成著 ディスカバー・トゥエンティワン

 

 

前回紹介したサイゼリヤの経営術に関する書籍。『サイゼリヤ元社長が教える年間客数2億人の経営術』(堀埜一成著 ディスカバー・トゥエンティワン)。多くの学びがありましたが、更に今回も気になった点を紹介します。それはサイゼリヤのようなチェーンレストランと個人経営のレストランの違いについてです。

 

サイゼリヤの精神は他社に勝とういう発想がなく、お客においしいものを提供することしか考えていません。他社に勝つための戦略は要らないと。ただお客様に日常つかいで食べてもらうためには「負けない戦略」が求められるというのです。勝つために求められるのが、東京理科大学教授であった狩野紀昭氏によって提唱された顧客満足度に影響を与える製品やサービスの品質要素を分類しそれぞれの特徴を記述した『狩野モデル』でいうところの「魅力的品質」です。魅力的品質とは、本来なくても構わないがあると嬉しい品質要素をいいます。勝つための戦略にはこの魅力的品質を追求するのですが、それで客を惹きつけるためには常に新しいサービスを導入する必要があります。もっと良いサービスを、という。個人経営のレストランはこの魅力的品質にこだわる傾向が強いと元サイゼリヤ社長の堀埜氏は本書で述べています。ところが魅力的品質すなわち味を売りにしている店ほど、味が変わったときの評価は厳しくなります。昔はおいしかったのに味が落ちたという評価ほど恐ろしく、一時期評判になりメディアでも紹介されたような人気店が数年後には姿を消すということも、珍しくはないのだというのです。

一方、サイゼリヤが求めるのは狩野モデルでいうところの「当たり前品質」。当たり前品質とは、あって当たり前と受け取られるがないと不満に感じる品質要素のこと。当たり前品質では常にベースラインは一定であり、そこさえ外さなければ客の評価は変わらないのです。当たり前品質をどの店舗でも変わりなく当たり前に提供することをサイゼリヤは目指しています。国内1000店の多店舗展開しているサイゼリヤでは個人の力量に大きく依存したサービスは維持でません。スタッフは流動的で入れ替わります。「前はやってくれたのに」、「あの店ではやってくれたのに」という不満が出ないように、当たり前品質で統一した方がいいわけです。ですからチェーン店に飛び抜けた人材はいらないのです。あるスタッフだけできても他の人にはできない技術は必要ない。突出した個性をそもそも求めていない。多店舗展開しているチェーン店では、当たり前のことを当たり前にできるようにベースラインを揃えることの方がはるかに重要なのです。

 

更にレストランの最重要点である料理の味についても言及しています。美味しければいいのか?という問いです。本書では図解して解説しています。個人店では美味しさ(魅力的品質)を追求するのが当然ですが、その場合、味の許容範囲が狭くなるといいます。美味しさの値は大きいですが、それを客が許容する範囲が狭くなり、尖った山なりのグラフになります。そうなるとちょっと味が変わると落差が大きくなり許容されなくなり、あの店は味が落ちた、と言われてしまう。チェーン店ではプロの料理人ではなく素人が調理するので味にこだわると店ごとの差ができていまいます。そのため美味しさのピークを落として味の許容範囲を拡げてなだらかな山なりのグラフにするどの店舗でも同じ(だと許容できる範囲)味を提供するのが理想です。日本で一番食べられているのはマクドナルドのハンバーガーですが、マクドナルドのハンバーガーよりも美味しいものはたくさんあります。しかし数の論理でマクドナルドが一番。そのためにはどこでも同じ味という安定が必要になるわけです。チェーン店では、ある店でしか出せないような際立った特徴はかえってマイナスになってしまうのです。

 

このようにレストラン業態において、チェーン店と個人店では同じように料理を提供していますが目指す方向、戦略が根本から違うのです。日常よく利用する外食産業ですが、ここまできちんと比較したものはこれまで見たことがありませんでした。サイゼリヤの創業者は東京理科大学物理学科を卒業していますが、本書著者の堀埜氏も化学畑出身。味を解析してグラフにより視覚化していることに感心しました。

 

さらにチェーン店での人事についても言及しています。スタッフ型の人間をマネージャーにしてはいけない。現場で働くことに長けたスタッフ型はマネージャーに向かないと断言します。スタッフ型とは一つのことに執着し、目の前の仕事に没頭するタイプで、対象を絞るとすごい能力を発揮するが次から次へ押し寄せる業務をこなすのはあまり得意ではない人。このようなタイプはマネージャーにさせない。マネージャー向きなのはマルチタスクで目の前の仕事をどんどん上手に捌ける人で決断力がある人です。違いは単なる向き不向きであり能力の優劣ではないのです。ところが日本ではマネージャーというポジションがご褒美になっていて○○長にならないと給料が上がらないような仕組みになっているため、誰もがそこを目指してしまう。また現場叩き上げのスペシャリストを昇進させて○○長にしてしまいがち。能力が発揮できないポジションにしても会社にとっても当人にとっても不幸であると。サイゼリヤでは長がつくのは1000店舗に一人だけの本部長だけにしました。そしてスタッフ型のスペシャリストに、専門的な内容について指導できるが部下がいないという新しい役職を用意し、キャリアの道筋をつけたのです。

 

この内容を読んで、本当に鍼灸業界に当てはまるな、とうんうんと頷きました。最近、学校を卒業して鍼灸師になってからのキャリア形成について考えること、学ぶこと、そして教える機会があります。先に参加した合同学術集会もそうです。個人的に相談に乗っている卒業後の進路についても。専門学校に通う学生は将来開業したいと考えているようです。大学だと研究や教育に目が向いているのかなと思います。開業したい学生は、レストランでいうと星付きの個人店を目指している、と言えます。ところが就職先として求人が来るのはほとんど大手グループ院。これはレストランでいうとチェーン店。そのミスマッチが問題になっているのです。新卒鍼灸師は個人店で働きたい、“個人店のような働き方”がしたいのに就職するのは大手グループ院ばかり。そこではチェーン店としての働き方を求められます。同じように鍼灸施術をするのでしょう?と思いがちですが、レストランのチェーン店と個人店の違いと照らし合わせるといかにナンセンスか分かります。サイゼリヤでミシュラン星付きイタリアンレストランのような働き方はしてはいけないのです。戦略も目指す方向も違う。新卒鍼灸師だと往々にしてあるのですが、就職したが思い通りの仕事ができないと腐ってすぐに辞めてしまうという。これがレストランで考えれば、調理専門学校を卒業したばかりの人間がミシュラン星付きレストランで、何でメインディッシュを作らせてくれないのだ!と不満を漏らすようなもの。そもそも雇ってもらえるのかという話で。皿洗いからホールスタッフから始めて、やり方を覚え盗み、先輩シェフのサポートに入り、日々練習して段々と料理を任されていくのではないでしょうか。ドラマだとだいたいそうです。

個人の鍼灸院はまさにレストランの個人店と一緒。突出した個性で持っているところばかり。術者の代わりにはなかなかなれませんし、そうそう雇ってもらえません。一方多店舗展開しているグループ院では個性よりも誰でも同じレベルで業務ができることが求められます。私自身、グループ展開をしていく過程の個人鍼灸整骨院に就職し、新卒1ヵ月で新店舗オープニングスタッフを経験しました。そこで直面した壁の一つに、私ができても他のスタッフにできない技術は職場の話を乱すものだということ。チェーン店に突出した個性はマイナスになるという本書の内容は身をもって知っています。最終的に就職した鍼灸整骨院を去った理由は個人の力量を存分に発揮したいという気持ちと本院副院長という管理職(マネージャー)になり術者としての業務よりもスタッフ育成や経営面のことが大きくなりすぎたことでした。私はプレイヤー(術者)とマネージャーと分類しますが、これは本書でいうスタッフ型とマネージャー型と同じこと。スタッフ型、というかそれを志望していた私が、マネージャー(管理職)に就くことで自分自身がダメになっていきました。私自身、マネージャーに向いていないと知ります。あじさい鍼灸マッサージ治療院を開業して10年。誰も雇わないし、今後も雇う気が無いのはスタッフ型(プレイヤータイプ)であるため余計なマネージャー業務を入れるとパフォーマンスが落ちるからです。

 

では将来個人店を開きたい新卒鍼灸学生はチェーン店に就職しても意味がないのか。そうとは私は思いません。実際に星付き個人店のオーナーシェフが敢えてサイゼリヤでバイトをしたという話があります。そこで知ったのは徹底的に業務効率をはかること。導線整理、物の配置、人の配置など。いかに自分が非効率なことをしていたかを痛感したそうです。また規模の経済といいますかサイゼリヤだから良質な食材を手に入れることができるわけです。本場のイタリア人でもなかなか飲めないワインも輸入しているそうです。上質なオリーブオイルも。製造、流通まで行っているサイゼリヤで働くことは個人では分からない勉強になったことでしょう。新卒鍼灸師もグループ院と個人院との相違を理解してそこで学べることを大いに学べばいいと私は考えます。私自身、開業志望は全くなかったのですが、グループ院になっていく過程を経験したからこそ学べたことがありましたし、反対に独立しようという考えに至りました。大事なことは違いを知ること。そして環境を活かすこと。

 

今回、外食産業のチェーン店と個人店の比較を整理して学べました。この内容は鍼灸業界でも応用できるものだと確信しています。

 

甲野 功

 

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