開院時間
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12月8日に第70回全日本学生競技ダンス選手権大会の観戦のため埼玉県草加市の獨協大学35周年記念館に朝からいきました。学生競技ダンス連盟、通称「学連」。競技ダンスの世界では大きく分けてプロフェッショナル部門とアマチュア部門に分かれています。プロではないということでアマチュア部門に分類されますが、独自の世界を築いているといえる学連。日本のアマチュア競技ダンス団体JDSFに所属していることになっていますが、実質独立して運営されています。学連の4大原則の一つに「学生の自主運営によること」があり、現役の大学生部員が大会の運営一切を行います。採点、司会、会場管理、備品搬入、審査員の手配、などなど。準備から後片付けまでほぼすべての業務を現役学生が担います。学連は地区ブロックで分かれていて、北から北海道ブロック、全東北ブロック、東部日本ブロック、中部日本ブロック、関西ブロック、中四国ブロック、全九州ブロックの7つです。私は東部日本ブロックに属する東京理科大学で学連に加盟して4年間学生競技ダンスをしました。
この7ブロックの大学すべてが出場する全日本選手権が毎年12月最初の日曜日に行われます。なお7月には各ブロックから選抜された学校が出場する全日本選抜があるため、12月の全日本を「冬全」、7月の全日本選抜を「夏全」と称するのが慣習です。夏全と違い、学連加盟校はどこでも出場することができるため冬全は学連最大の大会となります。そして部歴4年生はこの冬全が最後の公式戦となるため最重要の大会でもあります。学連の4大原則には「競技会は学校を背景とする団体競技を主体とすること」とあり学校単位での競技会が学生競技ダンスの特徴です。これは他のアマチュア、プロではないもので、競技選手は所属大学の名前が入った背番号を用いて競技に臨みます。背番号も各大学に割り振られています。大学名が変更すれば所属、背番号も変わります。最近ですと首都大学東京が東京都立大学に名称が戻りました。そうすると首都大学東京は東京都立大学として活動します。東京工業大学も東京科学大学に変わりましたから選手の所属も東京科学大学になります。個人で活動するアマチュア、プロと異なる学校毎の活動。それが高校野球の甲子園のように帰属意識を高めて学連は特有の熱狂を生みます。その最大級の大会が冬全となります。
冬全はまた特別なルールが存在し、単種目戦です。競技ダンスは社交ダンスを競技として行うのですが、スタンダード・ラテンアメリカンの2部門で各4種目ずつ、合計8種目のカテゴリーがあります。冬全はこのうち8種目で競われ、各カップル1種目しか出場できません。他の学連競技会を含めてほとんどの競技ダンスでは複数の種目を踊りその合計成績で順位を競います。1種目だけに出るというのは学連特有のシステムといえます。アマチュアやプロのトップクラスは5種目総合、あるいは10種目総合で争われるのですから。4年間という限られた期間で活動する環境によるものかもしれません。この冬全のルールにより毎回8組の全日本チャンピオン、すなわち学生日本一が登場します。出場カップ数を増やせて学生日本一になる可能性が広がるのです。学連選手にとって、冬全で優勝することが目標となることがとても多いです。一度あの会場の雰囲気を体験すると。学連選手当時の私ももちろんそうで、冬全は他の競技会とは世界が違うというくらい特別なものでした。
私がこの仕事に就いた大きな理由は社交ダンス関係者のサポートをしたいという願い。特に学連選手のケア、サポートをしたいという気持ちが強く、開業10年を超えてもそれは今も変わりません。私の場合、冬全に3度出場しています。当時の東京理科大学はスタンダード弱小校で私はスタンダード専攻でした。スタンダード専攻の先輩がとても少なかったので枠が埋まらないため2年生の頃から出場していたというわけです。最も重要で最後にかけていた4年生の冬全。その約10日前に自主練習で太もも裏を肉離れしてしまいました。当時は大きなケガをした経験がなかったですし、もちろん今のような医学知識があったわけではありません。まともに歩けなくなってしまうもどうしたらよいのか分からず、ただただ焦りながら安静にして自然治癒を待ったのでした。適切な医療機関を受診する、誰かに相談するなど。このような選択肢が頭になく、不安を抱えたまま冬全当日を迎えまたのでした。当日は2次予選で敗退。私の実力でいえば妥当な結果ですが、もしもあのとき万全のコンディションで臨めたら。そんな後悔が残ります。きっと万全でも成績は変わらなかったでしょうし、むしろ1次予選で敗退していたかもしれません。ただやり切れない気持ちが残ったのです。このときの大学4年生だった過去の自分をどうにかしたくて、学連選手を診ている部分があります。
今年も冬全を前にコンディション調整に来てくれる現役の学連選手がいました。今年4年生の選手は2年生の頃から来院してくれている選手もいて思い入れも強くなります。特に2年前はまだまだ新型コロナウィルスの影響がありました。2019年以前と比較すると学連の様子が大きく様変わりしました(それは他の業界もそうなのでしょうが)。この4年で東部日本ブロックでは多くの大学で学連所属の競技ダンス部が消えました。東京電機大学、東洋大学、工学院大学、横浜市立大学、神奈川大学。新型コロナ前から減っていた部員数にとどめを刺した形もあります。現在も残っている大学でも部員数が激減して建て直すに苦労している大学が多いです。明治学院大学は元々代表校でしたが現在は東京科学大学の共同加盟校として活動し代表校独立を目指しているところ。新型コロナ流行がはじまった2020年では夏全は開催中止、冬全はいつも使用している獨協大学が使用できず一般施設を利用して2日間に分けた開催に。それも無観客、無声援。地方大学では上京が許されず不参加となったところもあります。翌2021年は獨協大学で開催できましたが2日間に分けて関係者のみの入場。2022年は土壇場で有明アリーナを借りることができ、密を避けることができると1日での開催、完全マスクなしでの競技、声援OK、有観客という環境で行われました。昨年は獨協大学での開催でコロナ前と同じ環境で行うことができました。昨年の冬全も会場に出向いたのですが、かつてほどの観客数はいなくて、息も詰まるような圧迫感はありませんでした。冬全は本当に立錐の地なしというくらい人で溢れかえるのですが。東部日本ブロックだけでなく地方ブロックも選手が減っているわけですし、付随してOBOGも減る。人数が減っていることは自然です。このような環境で学連生活を過ごしてきた4年生。来院している患者さんのことはもちろんのこと、他の4年生たちの雄姿も見ておきたいと思い、朝から会場にいきました。
選手数が減れば登録料も減ります。金銭的に苦しいようで、今回の冬全ではパンフレットに広告協賛を募りました。学生主体を謳う学連としては異例のことです。そもそもパンフレット作製自体数年ぶりだそう。恩返しにもなると考え、当院も広告を1/2ページ出しました。後日パンフレットは郵送されるらしいのですが、会場でも購入しました。
また今回は観戦に事前登録が必要となりました。前日に来院した選手か外部から観戦する予定来場者数が900名くらいあると聞かされていました。そして当日会場では受付チェックがあり、一人一人確認がありました。このようなことは初めてで入場のために10数分ほど並ぶことに。その際に周りを眺めていると学連OBOGに見えない親御さん達と思われる方々が多数いてやはり冬全は違うなと感じました。
開会式。参加代表校をみるとかなり数が戻ってきていると感じました。北海道ブロック2校、東北ブロック6校、東部ブロック24校、中部ブロック4校、関西ブロック7校、中四国ブロック1校、九州ブロック3校。東北や中部、九州でも学校数がこれだけあるとは思いませんでした。更に大学内で何かしらの理由によりカップルが組めず他大学同士で組み、条件をクリアーして冬全に参加するシャドー選手の数も多かったです。東部推奨選手が12組と多いのは例年通りですが、北海道推奨4組、関西推奨2組、中四国推奨1組と地方ブロックの推奨選手も増えています。北海道推奨と中四国推奨選手を私は今回初めて知りました。今年の夏全から5種目導入となりました。段々とルールが変わってきているのでそれをチェックするのも大切な業務になります。
審査員の先生は全国から集まります。プロ団体は大きく分けて3団体あります(JBDF、JDC、JCF)。各団体、各地区から呼ばれスタンダード・ラテン各11名。22名が集まります。これも全日本ならではの光景です。その中に毎月お会いしている武蔵野美術大学OBの本池淳先生がいて驚きました。他にも学連OBOGの先生が確認できてかつてしのぎを削ったこの会場でジャッジとして戻ってきた様子を眺めます。冬全は観戦に来るプロ選手の数も非常に多いです。大体が学連を経てプロになった先生で後輩の応援。そこかしこで交流が見られるのも風物詩です。
フロアーでの競技会。コロナ以降選手層が薄くなりました。かつてはその前の大会でファイナルに残るような選手が1次予選で敗退することがある冬全。1次予選からヒリヒリとした緊張感があります。2020年以降1次予選は4年生には上がりやすくなりましたが、部員数が増加に転じており、下級生の層が厚くなってきているので勝ち上がることが難しくなりつつあります。2次予選から準決勝戦の壁はかなり厚くなっていることが伺えました。4年生にとっては予選落ちすればそこで引退が決定。結果が出て会場で泣いている選手の姿が見られます。これも冬全の光景であり、気が付けばこれが学連最後のダンスだったのかということを実感し涙するのです。それがあるから早めに来場して姿を見ておこうという気持ちにさせます。
昼休みが終わるとフォーメーション競技。フォーメーションとは各大学で8組が同時に踊るショーダンス要素のもの。これはフロアーに1大学ずつ踊り、曲・構成を規定時間内に納めて作ります。冬全のフォーメーション競技は出場条件が各ブロックで異なります。東部ブロックでは上位4校に出場権が与えられます。部員数が減ったことで大いに打撃を受ける種目で、8組選手を用意することが難しいという大学が多いのです。冬全でフォーメーション出場するのは東部では非常に困難であります。去年は連覇を続けていた大阪大学がフォーメーション不参加で電気通信大学が初優勝を果たします。電気通信大学は学生競技ダンスの超名門校なのですが、唯一できなかったのが冬全フォーメーション優勝だとされていて、昨年悲願のタイトル奪取でした。今年も大阪大学はフォーメーションには出場していません。また私の世代では絶対王者で9連覇を成し遂げた神戸大学も出場していません。大阪大学、神戸大学はラテンフォーメーションをする大学。東部ブロックはスタンダードフォーメーションしかないので、唯一冬全でラテンフォーメーションを目の当たりにするのが東部の学連選手でした。今回はラテンフォーメーションの大学が少なく、スタンダードフォーメーションが大部分。成績も上位はスタンダードフォーメーションばかりで時代の変化を感じます。
フォーメーション競技が終わると準決勝戦。12~13組が残り、上位決勝戦・下位決勝戦に分けます。下位決勝戦というのも学連特有のルールであり、準決勝戦で上位6組(あるいは5~7組)に残れなかったカップルが更に順位を決定するために競技を行うのです。アマチュア、プロでは見ないシステムです。準決勝戦からは会場は更に熱を帯び、観客がほぼ絶叫しているような状況の中競技が進みます。準決勝戦から代表校大学名と名字がコールされて選手入場口から1組ずつフロアーに入ります。1曲の時間が最も長い準決勝戦。12組ものカップルが1フロアーで同時に踊るので混雑します。その混戦を抜けることができるか。熾烈な勝負に。
準決勝戦が進む中、どんどんと結果が発表されていきます。私の世代はヒート表といって紙が張り出していましたが、現在はアプリやLINEで結果がアップされていきます。決勝に勝ち上がる者、落ちる者。天国と地獄くらい差があります。私の後輩達も冬全で決勝に残ったことが分かり泣き崩れる子も多かったです。それくらい冬全で決勝に残るという事だけでも大変なことです。
そして下位決勝戦。上位決勝戦の前に行われます。そのため準決勝戦が終わってあまり時間が空かずに行われます。冬全の下位決勝戦。実は最も重要な競技かもしれません。4年生学連選手はこれが競技会ラストのダンスだと認識するのはこの下位決勝戦と優勝した場合に行うオナーダンスの2つだけです。これが例外であり大部分では結果が出て、ああ、あれが最後のダンスだったのだ、と知るのです。中には冬全出場すら叶わない場合もありますし。冬全の下位決勝戦は、優勝することはありません、そしてこれが最後のダンスですと理解して、踊るのです。それは非常に残酷でもあり幸せなことでもあります。やる側も応援する側も最後だと分かっている。入場前から涙を流している選手も少なくありません。涙をこらえながら、ときに流しながら下位決勝戦のフロアーに立ちます。特に優勝候補の強豪選手が下位決勝戦にまわったときの感情は大変です。準決勝戦まで残れてラッキーと思うレベルならハッピーで終わるでしょうが、この後競技するファイナリストの前に終わるという悔しさがあります。曲が終わって退場する際に、下を向かず歩いていきます。ダンサーの習性でフロアーに入って下向いてうつむくことはしません。体に染みついているのでできません。そのため感情を押さえきれなくとも前を向いて顔を上げてフロアーから去っていく様を見せます。退場してから泣き崩れる選手も多数います。圧倒的な現実で本当のドラマです。感情を揺さぶられます。
決勝戦。来院している選手もいたので個人的に応援をしていていました。それとは別に大学生の集大成たる晴れ舞台を現場で見られたことが良かったです。決勝はファイナルソロといって1組ずつ短い時間踊ります。あの冬全の会場においてソロで踊れるというのは簡単に経験できないものです。絶叫のような歓声の中、一組だけで踊るわけです。全組のソロが終わると全員で踊ります。全員のファイナルソロが終わるとしばし休憩タイム。最後の選手が体力的に不利にならないようにする配慮。ルールが追加されていました。各種目が終わるとファイナリスト全員が並び観客、本部席にお辞儀をすることが近年の定番です。
近年は地方ブロックの台頭が激しいです。コロナ前は人数比もあり、圧倒的に東部ブロックの選手が全日本でも強かったです。だいたい全学連登録選手の半数が東部の選手だと言われていました。現在は関西ブロックの選手が優勝することが多くなり、以前から競合だった北海道大学はますます力をつけています。岡山大学も近年強豪校となり、九州大学、福岡大学の九州勢も成績を残しています。冬全は特に地域ブロックごとの勢力争いもみられることも面白いところ。
またコロナ禍以降早い段階から上位に食い込む選手が増えています。今大会も3年生のチャンピオンが何組か誕生。昨年に続き冬全2年連続優勝という選手が今年は2組いました。過去に1組だけ冬全3連覇(2年、3年、4年で優勝)を成し遂げた者がいましたが、3年や2年でもより冬全ファイナリストに入るようになっています。
成績発表です。競技ダンスはオナーダンスという優勝者が踊る時間があります(※大会によってはありません)。4年生は冬全のオナーダンスが、これが最後のフロアーだ、と認識して踊るダンス。同じダンスでも4年生のそれと3年生とでは雰囲気が大きく変わります。当人もそうですが応援している観客が特に。昨年3年生で優勝してオナーダンスを踊った選手が今年4年生でも別の種目で優勝しました。その表情はやはり昨年とは違いました。特に今年のチャチャチャはオナーダンスの熱狂がとてつもなかったです。あれほどの声援はそうそうないものです。会場が揺れるという感じでした。本当に新型コロナを乗り越えたのだなという気持ちになりました。
自分自身が最後の冬全に出場したのが1999年。もう四半世紀前になりました。今になってもこの大会は別格です。それは多くのOBOGも同じよう。何年経っても忘れられないという声をよく耳にします。冬全で優勝できなかったからプロとして大成できた。あと1チェックでファイナルに入れなかったから今も続けている。そのような話を。きっと今年卒部した4年生も同じように人生の大きな出来事として刻まれるのではないでしょうか。
甲野 功
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