開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
今年も終わりが近づいています。今年2024年を振り返ったときに一つ思うことがありました。あん摩マッサージ指圧師としてちょっと衰えていたなという気持ちが芽生えました。気付いたともいえます。
あん摩マッサージ指圧師。医療系国家資格でありますが、世間の知名度はかなり低いでしょう。正確に名称を言える人は少ないと思われます。マッサージ師、指圧師、整体師。マッサージをする人という意味合いで認識されていて、未だに私の事を整体師と呼んだり、鍼灸を整体といったりする人がいます。悪気がないのでしょうが、当事者は結構気になります。なぜこれだけ認知されていないのかというと圧倒的に絶対数が少ないからです。あん摩マッサージ指圧師の国家資格を持っている人の数はそれなりにいるのですが、視覚障害者の割合が高く、晴眼者の人数が増えないように法律で決められています。どうしても日常で視覚障害者の方と接することが多い人は限られます。私のような視覚障害がない晴眼者のあん摩マッサージ指圧師は相対的に少ないです。鍼灸師、柔道整復師も20世紀までは養成施設の新設を制限していたので数が横ばいでしたが20世紀末の裁判により、それが解禁。養成施設が激増し、それにともない鍼灸師、柔道整復師の数も増加しました。また理学療法士の養成施設もそれに輪をかけて増加の一途。反対に新しくあん摩マッサージ指圧師になる人数はここ数年右肩下がり。
人数のこともありますがその名称も複雑なことが理解されない要因と考えています。あん摩マッサージ指圧師。名称が長くないですか?柔道整復師も柔道という武道が医療職種の名称に入っていることが変に感じますし整復とは?という感じがします。たまに整復が制服と間違って書かれて柔道制服師と書かれていることがあります。ただ柔道整復師だと柔道に整復(※整復とは異常な骨の位置を正常に戻す操作です)と2つの要素だけです。他にも理学療法士、作業療法士、言語聴覚士なども同様に2つの要素。ところがあん摩マッサージ指圧師は按摩(あん摩)とマッサージと指圧と3つの要素が並んでいます。これが面倒でして按摩とマッサージと指圧はそれぞれ別の技術なのですがどれも指や手を用いるもの。あん摩マッサージ指圧師でなければこれらの差異を正確に説明することはできないでしょう。何が違うの?という感じでは。また歴史的には按摩師から始まり、按摩マッサージ師になり、そして現在のあん摩マッサージ指圧師になったという経緯があります。そして(あん摩マッサージ指圧師の)指圧とは、指で押すことを指圧というわけではないのです。指先で押す以外にも様々な技術が入ります。こんな複雑な背景があん摩マッサージ指圧師にはあります。
私はあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師の国家資格を持っているのですが、まず取得しようとしたのがあん摩マッサージ指圧師でした。あん摩マッサージ指圧師になるために専門学校を探し、ついでにはり師、きゅう師(鍼灸師と一般的にまとめることが多いですが国家資格としては別々)を取ったのです。本科と言われる鍼灸マッサージ科に入学したからです。これは3年間の勉強で3つの国家試験受験資格を得られるのです。対して専科と言われる鍼灸(はり師、きゅう師)だけの科もあります。現在、専門学校も大学も圧倒的に専科の数が本科よりも多いです。それは先に述べた通り鍼灸師養成施設を新設することが解禁となったため増加したからです。あん摩マッサージ指圧師養成施設は法律で新設を制限されているので増えていません。唯一の例外は大宮呉竹医療専門学校だけ。あん摩マッサージ指圧師、はり師・きゅう師の3資格を同時に取得する人が多いのです。
なお晴眼者であん摩マッサージ指圧師資格のみを取得できる専門学校は東京の日本指圧専門学校、長生学園、京都の京都仏眼鍼灸理療専門学校の3校のみです。他のあん摩マッサージ指圧師を修得できる専門学校では全て鍼灸師も一緒にとる本科です(鍼灸のみの専科を併設しているところはあります)。ただし視覚障害者の場合は話が変わり、あん摩マッサージ指圧師のみの科も多いです。器材を用いる鍼灸はあん摩マッサージ指圧より視覚障害者には困難なことがあるためです。
晴眼者であん摩マッサージ指圧師のみという術者は業界内でもかなり稀なのです。すなわち、日本指圧、長生学園、京都仏限のいずれかのあん摩マッサージ指圧師科を卒業した者しか現状いないわけです。ところが幸運にもその3名と今年は会うことができました。そしてそのうち2名と一緒に働く機会に恵まれました。
11月。社交ダンスのイベントであるS&T Championshipsで日本指圧専門学校卒の神田先生と長生学園卒の鈴木先生と共にマッサージブーズを出したのです。折り畳みベッドを3台おいて来場者に向けて按摩、指圧を行います(一般の方はマッサージだと認識しているのですが)。日本指圧専門学校は浪越学園という学校法人で、浪越徳次郎という有名な指圧師が創設しました。浪越指圧という技術を継承しています。長生学園は宗教法人総本山長生学寺が運営し、僧侶が創設しました。長生術という徒手技術を教えています。神田先生、鈴木先生は関西外国語大学で学生競技ダンスをしていた関係で私と面識が生まれて今回のイベント参加になりました。ここでベッドを並べて一緒に仕事をしたことで純粋なあん摩マッサージ指圧師の実力を感じました。お二人は鍼灸師ではなくあん摩マッサージ指圧師のみ。当然、鍼灸はできません。常に自分の指、手などの体を用いて施術をしています。その施術と私自身を比較したときに、いつの間にか手技が甘くなっていた、と気付きました。どこかで「いざとなったら鍼を刺せばいいし」という甘えのようなものが生まれていました。元来あん摩マッサージ指圧師になりたくて専門学校の門を叩き鍼灸はついでだったはずが、徒手手技が鍼灸への前段階になっていたようです。按摩、指圧で絶対に効かせるという気概が無くなって(低下かも)いました。そのことをお二人と並んで施術をしてみて分かったのです。
色々な技術(資格)を持っている。それは私の長所です。ところがそれがあん摩マッサージ指圧師単体としてみたときに短所になっている部分がありました。S&Tのイベントは鍼灸や柔道整復のカテゴリーも入れたらどうでしょうかと言われたのを保健所の申請と器材管理が難しいため(会場で鍼が落ちて見失うと大問題ですし、会場で火を使うことはできないでしょうから灸はできない)マッサージのみにしました。それも浪越、長生というあん摩マッサージ指圧の技術に私が出た呉竹学園の技術を並べてみたいという私の希望がありました。浪越、長生、呉竹が一堂に会して施術をすることは画期的だという気持ち。呉竹学園にも呉竹指圧というものがありますし按摩も独特な揉捏方法がありますし。ところがそこに手技に対する覚悟というか情熱が足りなかったです。何となく流す圧の入れ方で絶対に効かせようというものでなかったような。結果論ですが。
S&Tの少し前に京都に日帰り旅行へ。そこで京都仏眼を出た先生とお会いして話をしました。内容はほぼあん摩マッサージ指圧の技術論でした。按摩の学校として生まれた京都仏眼。その伝統。関西伝統指圧という初めて耳にする技術。輪状揉捏へのこだわり。何より按摩師としてのプライドを感じました。手ぬぐい一つを持って各地をまわる(按摩師は施術に手ぬぐいを用います)。出張で家庭や施設をまわっていくことがかつての按摩師の姿でした。私にはこれしかないという心構えが表れていました。
説明した通り視覚障害者ではあん摩マッサージ指圧師のみという方が多いです。私もこれまでに何人か一緒に働いたことがありますし、知人にもいます。視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師は技術体系が我々と異なるのかもしれません。9月に呉竹医学会学術大会に参加し、視覚障害者のある先生のマッサージ療法を見学する機会がありました。そこで見たマッサージは私が習ってきたものとは違いました。これまでの概念が崩れる気がしました。そうなのかと。このことを京都の先生に話したところ、京都仏眼も視覚障害者のためにできた学校であり技術的に納得できるかもということでした。今まで考慮してこなかった視覚障害者による徒手技術は特徴があるのではという疑問が生れています。
自分の中であん摩マッサージ指圧師が根幹にあります。誇りもありますし生業として生涯やっていくことを覚悟しています。しかし他にもできることがあるために疎かになっていたと気付いたのでした。
甲野 功
コメントをお書きください