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昨年のパリオリンピック。新規採用された種目の一つにブレイキンがあります。かつてブレイクダンスの名称で知られていました。日本からも女子選手が金メダルを獲得しました。注目されたと言えます。ところが、次回のロサンゼルスオリンピックでは行われないことが決定しています。ブレイキンの発祥はアメリカとされており、せっかく採用された種目でもあるのに一体どういうことでしょうか。これが設備の問題という事なら納得できます。例えば東京オリンピック2020で復活した野球・ソフトボール。これは野球場が無いことを理由に種目から外れていた野球・ソフトボールが東京(日本)なら野球場があるからという施設面の理由もあり復活採用されました。一方、パリオリンピックでは不採用になり、次回2028年のロサンゼルスオリンピックではまた復活します。もちろんロサンゼルス(アメリカ)には野球場があるので施設面の問題はありません。ブレイキンは極端な話、平坦な土地と音楽設備があれば開催は可能。設備面の不備から不採用になることは考えられません。ではどうして発祥の地、アメリカで開催されるオリンピックでブレイキン種目が不採用になったのでしょうか。
理由の一つは、ブレイキンは文化でありスポーツではない、という考えがあります。成り立ちがギャングの抗争からと言われるブレイキン。スポーツとしてルールに則った競技にすることは本質から外れるという。これは剣道や合気道に置き換えると分かりやすく、剣道も合気道も武道でありスポーツではないという思想が強くあります。剣道も合気道もオリンピック種目になることを(今のところ)目指していません。柔道も武道でしたがオリンピック種目になる道を選択し、国際式とかJUDOとかで表現される国際スポーツとしての柔道種目になりました。本来は体重は問わない無差別級が基本で、双方白い柔道着で行う柔道。それが国際スポーツ種目になることで日本を離れてルールがどんどん改正されていくことになります。ブレイキンもオリンピック種目になることで変容することを拒んだのでしょうか。審査員の票で決まるというオリンピック種目はほぼ皆無です。続けばフィギアスケートのように技の難易度が細かく点数で設定され、画像判定が導入されるような流れになっていくかもしれません。流す曲も公平を期すため事前に告知しているか装置がランダムに選ぶというような措置が予想されます。DJの存在で結果が左右されることはアンフェアだというクレームが生じることで。
このような理由とは別に内幕を取材した記事が出ました。
スイス公共放送のサイトです。これを読むと非常に強い衝撃を受けました。それはブレイキンと競技ダンス(ダンススポーツ)とは深い関係があるからです。
改めて説明すると私は大学に入学して学生競技ダンスの世界に入ります。社交ダンスを競技として行う競技ダンス。最初から競技のための社交ダンスを習いました。そのため鹿鳴館の舞踏会に代表されるような紳士淑女の嗜みという社交ダンスはほとんど知らず、同世代の大学生を相手に勝負をする競技ダンスしか知りませんでした。社交ダンスは文化ですが競技ダンスはスポーツ。少なくとも私の入った部活は完全な体育会系で練習も上下関係も厳しくありました。そして私が大学生の頃から競技ダンスをオリンピック種目にすることは業界の悲願でした。
競技ダンスのオリンピック種目採用に日本だけでなく競技が盛んな国も賛同していました。社交ダンス発祥の一つとされ伝統の世界大会が開かれるイギリス。イギリスのブラックプールは社交ダンス界の聖地です。2012年のロンドンオリンピックでの種目採用を狙うも叶わず。更に先の東京オリンピック2020でも申請を出しましたが不採用。空手、スポーツクライミングらが採用されたのは記憶にあることでしょう。
採用されない理由の一つに社交ダンスは芸術・文化でありスポーツではないという指摘。それに対する手段としてダンススポーツという概念を提唱。それまでにないスポーツとしてのダンスを打ち出すことにします。世界ダンススポーツ連盟(WDSF:World Dance Sport Federation)が発足します。日本にも日本ダンススポーツ連盟JDSFがあります。そしてブレイキンを管轄するのもこのWDSFなのです。競技ダンスの組織が畑違いのブレイキンを何故?という疑問が浮かぶでしょう。その裏事情はある程度社交ダンスに携わっていれば知っていることなのですが、詳しい内情をスイス公共放送(SRF)は取材しこの記事にしているのです。記事の内容が真実だとすると、知らなかった情報ばかりの上、驚くばかりです。
記事の内容を要約すると、競技ダンスをオリンピック種目にするためにWDSFによってブレイキンは利用され、ブレイカー(※ブレイキンをするダンサー)が不満を覚えているという、というのです。
まず競技ダンスのWDSFがなぜブレイキンと関わるようになったのか。それは前述したようにオリンピック種目採用の夢からでした。記事ではWDSFは長い間、競技ダンス(スタンダード・ラテン)を種目に加えようと働きかけてきたが実現しなかったことを明らかにしています。WDSFは国際オリンピック委員会(IOC)公認団体。IOCは競技ダンスが採用するとすれば若者の共感を呼ぶダンス、ブレイキンのようなクールなイメージのものでなければならないと示したという。そこでWDSFはIOCの要件を満たすため、ブレイカーの取り込みを図ったという。ブレイキン関係者によれば「WDSFは接近してきたが、ブレイカーに関する知識は皆無だった。ブレイカーを迎え入れたのはIOCの要件を満たすためだということは明らかだった」と証言していると。当然のようにブレイキンと社交ダンスとではそのルーツからも分かるように文化は相容れず反目を生むことに。2017年にはブレイキン側からWDSFとの協力関係を打ち切るよう求める嘆願書と署名2,000筆がIOCに提出されました。WDSFが競技ダンスをオリンピック種目に採用するための足掛かりとしてブレイキンを利用していることがこの時点で非難の的になっていたといいます。また競技ダンス選手側からもこれまで何の関係もなかったブレイキンにWDSFの資金を使うことに反対が出ました。更に新型コロナウイルスのパンデミックに伴う財政負担がブレイキンへの費用が重なり、WDSFの財政を圧迫したと報告しています。
取材により、WSDFがブレイキンに関する発言権を独占し統制しようとする意思をうかがわせる、としています。またブレイキン界のレジェンドブレイカーが、WDSFがブレイキンを受け入れたことはなく、批判者を黙らせ自由を奪った、としている。ブレイキン側はWDSFにブレイカーを幹部会に入れるなどの要求を出します。WDSFは同意しましたが、その人選はWDSFが決定するという条件付き。協力してブレイキンをオリンピック種目にすることを賛成していたブレイカーたちも、いつのまにか除名されるか自らWDSFとの縁を切ったという。
ブレイキンがパリオリンピック種目採用されると潤沢な資金提供をWDSFは受けるようになりますが、その用途は不透明活かつ不平等だった。ブレイキンには大幅な支出削減を強いられたが、社交ダンス出身の事務局長の年俸は倍増。WDSF顧問を務めていた英国のブレイキン専門家は、「縁故主義にまみれたひどいガバナンスだった」と批判。WDSFの運営委員会はオリンピックの準備が本格化した2021年から議事録を公表しなくなった。
他にもWDSFの問題点を指摘しています。記事では『SRFの調査でも、WDSF が伝統的ダンスを五輪競技に追加するためにブレイキンを手駒として利用しようとした形跡が明らかになった。その目論見は最終的に失敗に終わっている。』と書いています。
この記事の内容が全て事実なのかは判断がつきません。日本(JDSF)においてはこのような差別的な話を私は耳にしたことがありません。JDSF主催の競技ダンス競技会にブレイキン種目があることもあります。世界のWDSFにおいてはブレイキンと競技ダンス(社交ダンス)の対立があり、ロサンゼルスオリンピック種目不採用を期に袂を分かれる可能性も記事では示唆されています。海外ではWDSF以外の団体が独自路線でオリンピック種目採用を目指すという動きがあるとの情報もあります。WDSFとブレイキンがどのようになっていくのかを見守りたいと思います。
甲野 功
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