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3月第一週目の日曜日は柔道整復師国家試験実施日となります。年に一度しかない国家試験。現在受験生は勉強の真っ最中でしょう。
柔道整復師は厚生労働省が管轄する国家資格免許であり、所定の養成施設(専門学校、大学)で最低3年間勉強し、所定の養成施設が受験資格を与えた上で受験することができます。国家資格はマークシートの筆記試験のみです。そのため養成施設で実技試験を行った上で実技認定を行います。もちろん座学の試験も。それを全てパスしないと受験することができません。私も柔道整復師であり、2011年の3月に柔道整復師国家試験を受験して合格しています。忘れもしない2011年3月5日。その6日後に東日本大震災が起きました。
さて柔道整復師国家試験においては、学校によっては生徒に受験させないという問題が起きます。専門学校は特にそうなのですが、国家試験合格率は広報活動で重要です。高い合格率を示して生徒集めに活用したいと考えます。教育研究を主とする(文部科学省管轄の)大学よりも職業訓練の意味合いが強い(厚生労働省管轄の)専門学校の方が国家試験に合格できないことが死活問題になります。合格率を上げるために学校側の判断で国家試験を受験しても不合格になりそうな生徒を受験させない処置を取ることがあるのです。全ての学校ではないです。そういうところがあると様々なところが耳にします。受験数を減らして分母を小さくする。その上で合格できそうな人だけを受験させれば、そうしなかったときより合格率が上がるという計算です。その場合は生徒に留年させてしまうこともあります。
ひどい話だという意見が当然あります。ただ既卒受験者、すなわち浪人した受験生の合格率は非常に低くなります。現役で受験して不合格だった場合、翌年合格するというのはかなり難しいのです。学校を卒業していれば毎日学校に行って勉強することはなくなるので勉強する習慣が無くなります。合格しにくくなります。それならば留年させて学校側がきちんと勉強させた方が良いという考えもあります。特に柔道整復師国家試験は最初の50問が必修問題といって、ここで8割以上正答しないと合格できません。必修問題8割に加えて全体で6割の正答。これが合格基準です。この要件はあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師にはないもの。必修問題の存在が柔道整復師国家試験の合格率を下げている要因の一つとも言えます。私が受験したときは必修問題30問の時代で分母が少ない分、間違えてよい問題数が少なく、今よりもある意味大変でした。午後の試験会場にいくと明らかに受験者数が減っていて、午前中の受験で合格を諦めてしまった受験者がかなりいたことが伺えます。現役で一発合格しておかないとより大変なのです。
ただ国家試験を受験する要件を満たしているのに学校側の意向で受験を認めないというのは人権侵害に抵触するとも考えられます。中には受験票を学校側が受験生に渡さないということもあるとか。本人の意志を認めない行為はいけません。
そのような実情がある中、先日以下のようなニュースが出ました。
讀賣新聞オンライン
成績不良を理由に受験認められず精神的苦痛、専門学校に賠償命令…地裁「受験資格は国が決定」
敢えて記事全文を記しておきます。
『
成績不良を理由に国家試験を受験しないよう指導され精神的苦痛を被ったとして、元学生2人が専門学校「鈴木学園」に慰謝料など各74万8000円を求めた訴訟の判決が19日、静岡地裁であった。酒井智之裁判官は「受験資格は学校側の裁量に任されているものではない」と判断し、2人に各5万5000円を支払うよう命じた。
判決によると、2人は2020年3月に実施される柔道整復師の国家試験に出願したが、学校側は卒業に必要な単位が足りないとして受験を認めなかった。2人は、同年2月に卒業に必要な単位を取得し、その後受験が認められた。
酒井裁判官は「国家試験の受験資格は国によって決定される」と指摘し、「学校側の裁量で剥奪することはできない」と結論づけた。一方で学校の対応について「可能な限り卒業の機会を与えようという姿勢がうかがえる。誤った認識に基づき受験しないよう指導したことを除けば、対応に問題があったとはいえない」とした。
』
このニュースをみたときに柔道整復師専門学校において、学校側が不当に国家試験受験資格を剝奪し、それを不服とした当時の生徒が学校側を相手取り裁判を行い、学校側が敗訴したのだと思いました。しかししっかりと読みこむと奇妙な点があります。まず『(生徒)2人は2020年3月に実施される柔道整復師の国家試験に出願した』とあります。出願と言うことは受験票が届く状況ではなかったのでしょうか。その後に『学校側は卒業に必要な単位が足りないとして受験を認めなかった』と続きます。卒業に必要な単位が足りない、すなわち卒業見込みが学校側からもらえていないということです。それであるならば国家試験出願できないのではないでしょうか。この点が1つ目の疑問です。学校側がこの生徒は国家試験に受験できる単位を満たしたと認めなければ受験できません。私は国家試験を受験したいので出願します、できました、では養成施設の意味がありません。誰でも勝手に受験できます。そうならないように必ず学校が関与するのです。これは学校側が国家試験受験要件は満たしているが卒業要件は満たしていないという2段階の要件を課していることなのでしょうか。そうであれば生徒側の主張は分からなくもないのですが、そもそも単位が足りていないのに国家試験を受験しようとするのかな、という疑問もあります。
2つ目の疑問は『裁判官は「国家試験の受験資格は国によって決定される」と指摘し、「学校側の裁量で剥奪することはできない」と結論づけた。』とあること。私も柔道整復師ですし、鍼灸マッサージ専門学校の教員免許も持っていて関連法律の勉強をしてきました。“国家試験の受験資格は国によって決定される”という事実を聞いたことがありません。そうなのでしょうか。私の認識では、国家試験の実施や認定は国(厚生労働省、および委託された機関)が行いますが、国家試験の受験資格は国ではなく各柔道整復師養成施設(この場合は専門学校)にあるという認識です。『「(受験資格を)学校側の裁量で剥奪することはできない」と結論づけた。』とありますが、そもそも学校側が認めないと受験資格は得られないはず。この場合、剥奪という言葉は妥当なのでしょうか。
なんだかよく分からないという疑問が浮かんでいます。そして別の報道を発見しました。
静岡第一テレビ
【“受験妨害”認定】模試結果理由に受験せぬよう指導したのは「裁量逸脱」…学校法人に賠償命じる(静岡地裁)
この報道によれば『模擬試験の結果を条件に、国家資格の受験を妨害されたとして、学校側に損害賠償を求めた』とあります。この文面から予想するに、学校側は国家試験受験認定は出していて、国家試験前の(おそらく国家試験対策用の)模擬試験の成績が悪くて学校側から国家試験受験をしないように言われたのではないでしょうか。そう捉えるとある程度は納得がいきます。これは裁判所が『学校側の対応は誤った認識に基づくものといわざるを得ず、学校側に委ねられた裁量の範囲を逸脱する』と判断したことなのでしょう。また『その一方で、2人は単位が足りず、卒業資格を得ていなかったにもかかわらず、学校側の救済措置で卒業資格を得る機会を与えられたとして、受験を認めない指導を除けば、対応に問題があったとはいえないとしました。』とあり、やはり卒業するための単位が足りていない生徒で、救済処置により卒業できるように学校側が配慮したことが書かれています。やはり疑問に思うのは卒業までの単位が取れていない生徒を国家試験の受験を認めるのか?という点。例え国家試験に合格しても専門学校が卒業できません(させません)となったらどうなるのでしょうか。学校側の矛盾が生じます。またこの報道では“国家試験受験は国が決める、それを学校側が剥奪できない”といった内容はありません。
ここで柔道整復師法をみてみましょう。第三章の「試験」というのは柔道整復師国家試験のことです。
『
第三章 試験
(試験の実施)
第十条 試験は、柔道整復師として必要な知識及び技能について、厚生労働大臣が行う。
』
このように国家試験は厚生労働大臣(=国)が行うことは法律で定められています。
『
(受験資格)
第十二条 試験は、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第九十条第一項の規定により大学に入学することのできる者(この項の規定により文部科学大臣の指定した学校が大学である場合において、当該大学が同条第二項の規定により当該大学に入学させた者を含む。)で、三年以上、文部科学省令・厚生労働省令で定める基準に適合するものとして、文部科学大臣の指定した学校又は都道府県知事の指定した柔道整復師養成施設において解剖学、生理学、病理学、衛生学その他柔道整復師となるのに必要な知識及び技能を修得したものでなければ、受けることができない。
』
かいつまむと国家試験を受験できるのは大学に入学できる者(年齢と高校を卒業している、あるいは高卒認定を持っている)で3年以上指定された学校(大学、専門学校)で必要な知識・技能を習得した者です。養成施設を指定する(認可を出す)のは文部科学大臣(=国)または都道府県知事でありますが、受験資格を認定するのは養成施設です。
『
(不正行為者の受験停止等)
第十三条 厚生労働大臣は、試験に関して不正の行為があつた場合には、その不正行為に関係のある者について、その受験を停止させ、又はその試験を無効とすることができる。
2 厚生労働大臣は、前項の規定による処分を受けた者について、期間を定めて試験を受けることができないものとすることができる。
』
このように国家試験を受験した際に不正行為を行った受験者には受験の停止、試験を無効にするという権限が厚生労働大臣(=国)にはあります。ただこれは国家試験において不正行為をした者であって、これから受験する受験者は該当しません。
柔道整復師法を読んでも“国家試験の受験資格は国が決定する”ということが分かりません。裁判官が法律を知らないはずがありませんし。何か別の事情があったのでしょうか。裁判記録がネットから探せないので詳細は今のところ不明です。どのような事が起きていたのか強く興味があります。報道だけをみると柔道整復師専門学校側に非があるように見えますし、実際には私も最初はそう捉えました。ただ不可解な点が多くあります。社会的影響は小さくないでしょう。だからこそ状況が知っておきたいものです。
甲野 功
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