開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
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住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
先日、『鍼灸マッサージつゆき按腹堂』の露木美那先生と当院でマッサージの練習会をしました。技術交流会ともいいますか。
あん摩マッサージ指圧師。正式な国家資格の名称です。あん摩マッサージ指圧師は厚生労働省が管轄する国家資格免許でありこれを持たない者が業として(※法律用語の範疇。「反復継続の意思を持って行うこと」と解釈される)マッサージ行為を行うとあはき法(※正式名称「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師に関わる法律」)第1条違反となります。私も露木先生もあん摩マッサージ指圧師であります。
あん摩マッサージ指圧師という長い名称はあん摩(按摩)、マッサージ(massage)、指圧の3つの技術をひとまとめにしていることに起因します。歴史的には按摩が一番古く、マッサージ、指圧と続きます。按摩の歴史は古く中国から伝わり我が国で根付き、701年に出された日本初の体系的な法律である『大宝律令』にも記載があるほどです。マッサージ(massage)は明治時代にフランスから軍医が導入したことが我が国の始まりと言われています。指圧は大正時代以降に日本でできたとされています。あん摩マッサージ指圧師はこの3種類を厳密に区別しています。一般の方にはどれも手で行う“マッサージ”でしょうと思うかもしれませんが技術、理論がそれぞれあります。『あん摩マッサージ指圧理論』の教科書には定義がはっきりとされています。
露木先生は前からその存在を知っていたのですが、共通の知人から実際にマッサージを受けてみようと思い立ち、昨年多摩センター駅の職場まで受けに行きました。そこで名称や噂で知っていた「後藤流按腹術」と「結合織マッサージ」を初めて体験しました。そして今年露木先生が中央林間で『鍼灸マッサージつゆき按腹堂』を開業したのでまた受けに行きました。そして今回、露木先生が当院まで訪れて、共通の知人にも手伝ってもらい、マッサージ練習会をしたというわけです。
露木先生は神奈川衛生学園専門学校という専門学校を卒業しています。学校法人が旧後藤学園といい(現在は衛生学園)、初代学長後藤真一氏による東京衛生専門学校が始まりです。後藤学園が小田原に小田原衛生学園を設立し、それが後の神奈川衛生学園専門学校となります。創業は後藤家になります。私が卒業したのは東京医療専門学校(現東京呉竹専門学校)。学校法人呉竹学園で創業家が坂本家。業界内では「呉竹」の通称があります。旧後藤学園は東京衛生専門学校、神奈川衛生学園専門学校と2校あり、呉竹学園は東京呉竹医療専門学校、横浜呉竹医療専門学校、大宮呉竹医療専門学校の3校と構造的に似たものがあります。東京衛生専門学校にはかつて教員養成科があり、東京呉竹医療専門学校にも教員養成科があるのでそこもまた似ています。
神奈川衛生学園専門学校はマッサージの学校から始まりました。最初の東京衛生専門学校が看護とマッサージの学校から始まりました。そのため現在も神奈川衛生学園専門学校は看護学科(看護師)と東洋医療総合学科(按摩、はり師、きゅう師)が併設されている学校です。その神奈川衛生学園専門学校を卒業した露木先生はマッサージに力を入れています。なお創業者の坂本貢先生が鍼灸師であり、鍼灸色がマッサージより強い呉竹学園では鍼灸色が強い卒業生が多いのです。その呉竹学園卒ですがあん摩マッサージ指圧師色が強めなのが私です。
露木先生は上で紹介した「後藤流按腹術」と「結合織マッサージ」ができます。この2つは私にとって未知のものでした。
「後藤流按腹術」はその名称からうかがえるように後藤家で誕生した按腹術です。按腹とは按摩の技術の一つでお腹への手技です。腹部という内臓が直下にある部分に対する施術方法が独立して按摩にはあります。それが按腹なのですが、その按腹術を更に突き詰めて独自の技術にしたのが「後藤流按腹術」。教員養成科時代に噂で聞いたことがあったのですが実際に受けたことも見たこともありませんでした。露木先生は「後藤流按腹術」の正統4代目継承者。昨年体験しました。
そして「結合織マッサージ」。『あん摩マッサージ指圧理論』の教科書に載っていて名前と特徴を文面で覚えたのですが実際にできる人、する人に会ったことがありませんでした。私にとって幻の技術でした。それも露木先生は修得していて、私は昨年受けることができました。
今回の練習会で私は「結合織マッサージ」を受けて、見ることができました。
あん摩マッサージ指圧師へのこだわりが強い私。今年のテーマを~按・マ・指を探求する~として様々なあん摩マッサージ指圧技術を研究しています。それ自体はずっとやってきているのですが昨年から本格的に各学校の特色を調べるようになりました。説明したように按摩・マッサージ・指圧の3種類からなるあん摩マッサージ指圧師。専門学校も按摩重視、マッサージ重視、指圧重視と特色が分かれます。例えば東京医療福祉専門学校は古法按摩の一つ吉田流按摩の学校。国際鍼灸専門学校や東京衛生専門学校はマッサージから始まりました。日本指圧専門学校は浪越指圧、長生学園は長生術をメインに教えています。呉竹学園にも呉竹指圧があります。このようにあん摩マッサージ指圧専門学校には様々な特色があり、技術の多様性があります。鍼灸ほどではなく、目立たないのですが流派がいくつもあります。外からみるとそれの何が違うの?と細かい違いであん摩マッサージ指圧師当事者でないと判別しづらい。また鍼灸師に比べるとあん摩マッサージ指圧師の数は少ない。そして自分の流派を大きくアピールしたり他を悪くいったりすることがあん摩マッサージ指圧師はあまりしない。そのためどんな技術があり、どのような違いがあるのか分からないのが現状です。そこを調査したいと思っています。
今回は「結合織マッサージ」をしている様子を見せてもらい、更に受けることができました。
「結合織マッサージ」。ドイツの理学療法士、エリザベート・ディッケ(Elisabeth-Dicke)女史によって生まれました。教科書に書いてあることを読んだだけではさっぱり分かりませんでした。大きな特徴として皮膚に直接触れるのに(オイルやパウダーといった)滑剤を用いません。それでいて皮膚の上で指を滑らせるのです。素肌に触れて指を滑らせると摩擦が生じて、術者も患者も互いに痛い。だから滑りをよくする滑剤を塗布して摩擦抵抗を減らすのです。しかし「結合織マッサージ」はそれを使いません。その理由として皮膚をつまんだり、両手で寄せて皺を作らせたりするからです。滑ってしまってはできません。これにより皮膚下組織の状態を調べるのです。そして用いるのが術者の中指と薬指。中指はまだしも薬指はよく動かせないので他の技術では積極的に用いません。そして引く動作がある。西洋発祥のマッサージ(massage)は押す動作が多いです。求心性といって末端から中央に向けて流していくのが基本。日本人は引く動作が得意で西洋人は押す動作が得意。日本のカンナ、のこぎりは引いて使いますが西洋のそれは押して使います。日本刀は引きながら切れますが、フェンシングは押す。このような文化的側面がありますが、「結合織マッサージ」では指を引いて滑らせる技術があるのです。皮下組織あるいは浅い筋膜へアプローチする「結合織マッサージ」はそれまで修得してきた按摩、指圧を含めたマッサージ術と一線を画します。
モデルとなってくれる方への施術をみて客観的に「結合織マッサージ」を見学できました。手技として擦過軽擦(平たい滑擦)、カギ型軽擦(立てた滑擦)。徒手検査としてハンゼン氏皮膚波法、皮膚牽引法。教科書に出ていたが実際に見たのは初めてという技術でした。その後私も受けましたがとても変わった感触でした。見学してから体験もしましたがまだまだ疑問が残りました。まだまだ研究が必要です。
交代して私もマッサージを披露しました。当然、私たちのいうマッサージですから皮膚の上から行う手技。私の場合はオイルを用いたものです。モデルを使って露木先生に2つのやり方を紹介しました。露木先生も受けてみたいという希望で行いました。ここでも技術の差異が明確になりました。
按摩、指圧に比べて臨床で行う機会が少ないマッサージ。学び練習する機会も限られています。まして学校を卒業していると教えてくれる人も練習相手もいません。見つけないといけません。そのような状況を考慮しても、非常に有意義な時間でした。「結合織マッサージ」はこれまで学んできたものにはない概念のマッサージ技術体系。本当に視野が広がります。皮下組織に対してアプローチする。皮膚に対する検査法がある。これは鍼灸や按摩指圧にも応用できそうです。今後もあん摩マッサージ指圧師としての練習・研究は続きます。
ご協力いただいた露木先生と学生さんに感謝です。
甲野 功
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